防衛費の増額を決定している政府自民党は、原子力発電所の運転期間の実質延長も決定。この国が徐々に危険な方向へ向かっていると感じることはないでしょうか。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、著者で評論家の佐高さんが、『原発と日本人』の共著者で原子力工学を専門とする小出裕章氏の「戦争と放射能」と題するレポートを紹介。他国に攻撃される心配がある国に原発があることの危険性を伝えています。
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「悪い国が攻めてくる」なら原発を廃止せよ
田中正造の写真が飾ってある小出裕章の研究室に通って『原発と日本人』(角川oneテーマ21)という共著を出したのは2012年だった。
それから10余年経って、1月20日に『俳句界』で対談した。掲載は先になるが、その前に彼の「戦争と放射能」を読んだ。平和の種をまく会編のニュースレター『平和の種』の101号に載ったものである。
小出は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しながら、ロシアがそれに踏み切った理由を2つ挙げる。
1つは、ソ連が崩壊して軍事同盟のワルシャワ条約機構が解体したのに対してNATO(北大西洋条約機構)は生き延びただけでなく、ワルシャワ条約機構に入っていた国々を次々と取り込み、ウクライナまでがNATOに加盟しようとした。
2つ目は、ウクライナで選挙で政党に選ばれた親ロシア政権を、2014年の武力クーデターで倒した親西欧政権が脱ロシア化を進め、ロシア語を使うことを禁じた。
「言語の使用を禁じることは、そこで育ってきた文化そのものをつぶすことで、犯罪と呼ぶべきことである」と小出は怒る。しかし、2つ目の指摘は無理があると、私に友人は言う。原子力の専門家として反原発を貫いてきた小出を私は尊敬するが、この点は間違っているようである。
強権的なヤヌコヴィッチ政権に対する学生や市民の抵抗によって、ヤヌコヴィッチが逃亡し、残された与党と野党が協議して臨時代行政府をつくり、大統領選挙を行った。この時には軍隊も動かなかったので、これを「武力クーデター」と呼ぶのは事実に反するという。
また、大多数のウクライナ国民はロシア語とウクライナ語のバイリンガルで、ロシア語の使用を禁ずることはできないし、大体、ゼレンスキーが人気者となったドラマ「国民の僕」は全編ロシア語だった。
多分、小出も私と同じく、アメリカだけが非難されていないことに不満だったのだろう。笑いが止まらないと思われるアメリカの軍需産業を彼は批判する。
「米国は世界最大の軍事国家で、米国が費やしている軍事費は、世界の軍事大国10傑の2位から10位までを合わせてもまだ届かない。世界の軍需産業の1位から5位までは米国企業であり、100傑までの売り上げの55%は米国軍需産業が占めている」
こう指摘した上で小出は「原発が抱える危険」に触れる。「1つの原発が1年間に核分裂させるウランの量は原瀑に比べれば1000倍以上も多い」が、福島第1原発事故が起きて発せられた「原子力緊急事態宣言」は現在も解除されていない。
小出は「日本では歴代の自民党政権が、悪い国が攻めてくると言って軍備を強化してきたし、軍事費を2倍に増やすだの、米軍の核兵器を共同運用しようなどという主張が出てきた。でも、本当に『悪い国が攻めてくる』ことを心配するなら、何よりもまず原発を廃止すべき」と訴える。
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