特例子会社の「パワハラ裁判」で原告の障がい者が訴えたかったこと

 

働く障がい者への無理解な判決だと原告側は名古屋高裁に控訴した。「無理解」に対しては、障がい者の権利条約や障がい者と仕事に関する国際基準などを示し、根本から障がい者雇用に関する論述を示した。その上で名古屋高裁が出した和解案には口外条項を設けず、企業に対しては以下の文言で合理的配慮を求めた。

「被控訴人は、障害のある労働者の雇用において、障害に関する正しい知識の習得や当該労働者との話合い、適切な記録化及びその継続的な検証等を通じ、当該労働者の障害の特性に関する理解を深め、その特性に配慮した必要な措置を講ずるなど、当該労働者がその有する能力を職場で発揮する上で支障となっている事情を改善し、その他厚生労働省策定の合理的配慮指針に沿った合理的配慮の提供が円滑に行われるよう、組織的な職場環境の改善に努めるものとする」

適正な記録化、継続的な検証とは、組織として適切なコミュニケーションを絶え間なく行うことと理解してよいだろう。

裁判の意見陳述で原告の女性は、自分が受けた被告会社の合理的配慮提供義務違反の問題だけにとどまらず「目に見えない障がいを持つ障がいの人たちが自立できる社会にしていくため」に訴えた、と説明した。

特に自らが「自分の力で働き、自立した生活をしたいと願っており、多くの障がい者も同じ思いだ」との思いを胸に、被告企業の特例子会社は特に「あらゆる障がい者にとって数少ない働く場所であり、大切な居場所」だと指摘し、社会全体の問題だと訴えた。

和解には口外禁止条項がなくなり、私も参加することになった報告集会も開けることになり、言論と表現の自由を基本とする社会での健全さも保証されたことになる。

集会で弁護団の一人は障がい者雇用をめぐり政府は法定雇用率で「数」の保証はしているものの、「質」の保証をしているとは言い難い、と指摘した。今後、政府も企業も「質」を考えての障がい者雇用を検討する必要性を示したが、それは支援者も含む障がい者雇用に携わるすべての責任と受け止めたい。

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