特例子会社の「パワハラ裁判」で原告の障がい者が訴えたかったこと

Shutterstock_1342761677
 

障がい者を雇用する環境を整えることで、親会社やグループの法定雇用率に算定できる特例子会社において、従業員である障がい者への配慮に欠けた言動は許されることではありません。ところが実態は「数」を合わせるだけで「質」を伴わないケースもあるようです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組む著者の引地達也さんが、名古屋高裁で原告の障がい者側が“勝利和解”したパワハラ裁判に言及。原告側が口外禁止条項のある和解案を拒否して裁判を続け、社会全体の問題として訴えたかったことが何かを伝えています。

障がい者雇用でのパワハラ裁判から考える「合理的配慮とは何か」

高次脳機能障がいと強迫性障がいがある岐阜県大垣市の女性が、障がい者雇用として働いていた特例子会社である名古屋市のウェブ制作会社からパワハラを受けたとして、会社側を「合理的配慮義務」違反として損害賠償を求めた裁判は3月、名古屋高裁において全面的に原告の主張を受け入れた和解内容で双方が合意し、成立した。

5月に行われた報告集会で、原告側の支援グループは、勇気を持って声を上げた原告女性の勇気を称え、和解内容を基本に全国の障がい者雇用の現場や社会全体に浸透していく必要性を強調した。

発言に立った原告女性は「なぜみんなと同じことができない!」「特別扱いはしない」との発言で自分を追い詰めた会社側が主張する指導は「暴力であった」と振り返り、和解内容をきっかけに同じように障がい者雇用で苦しんでいる人の助けになりたいと訴えた。

原告は13歳の時に交通事故に遭い、記憶など高次機能に障がいが残った。裁判記録などによると、被告の企業は障がい者雇用を専門とする特例子会社で2008年に入社。入社当初から自分の特性を示し、会社側も理解し対応していた。

しかし担当者が変わると理解はなくなり、原告が障がいの特性上、「出来ない」と言うと「出来ないならもっと申し訳なさそうに言え」との返答。さらに「見えない障がい」を説明すると「障がい者が障がいの説明をするな」と拒絶されたという。2015年に休職し、16年に退職となった。

女性は2019年に労働審判を申し立て、和解案も提示されたが、口外禁止の条項が盛り込まれたことなどから内容を拒否し、岐阜地裁で2020年3月に第1回口頭弁論が開始、第9回の口頭弁論終了後に裁判所からしめされた和解案にも口外禁止条項があったため、これを拒否し岐阜地裁は2022年8月、会社側に合理的配慮義務違反は認められないとする棄却の判決を出した。

この判決では、いわゆる「個人モデル」の考えに基づいており、会社側の主張に即した内容で、記憶障がいのある被告女性の意見の信用性は低い、と判断した。

この記事の著者・引地達也さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 特例子会社の「パワハラ裁判」で原告の障がい者が訴えたかったこと
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け