世界の分断にいっそうの拍車。G7広島サミットで分かった危機的な国際情勢

2023.05.25
 

「大国間対立をグローバルサウスに持ち込むな」という怒り

また、広島サミットではG7とグローバルサウスとの乖離も鮮明となった。当然ながら、グローバルサウスといっても国によって考え方は異なり、中国寄りの国もあれば、欧米寄りの国もある。しかし、グローバルサウスで広く共有されているのは、大国間対立をグローバルサウスに持ち込むなという怒りの声だ。

広島サミット後、ブラジルのルラ大統領はG7サミットで「ウクライナ問題を議題にするべきではなかった、戦争の話は国連でするべきだ」との認識を示した。日本国内にいると驚くような声だが、こういった声は決して珍しくない。ブラジルは中国やロシアと農産物やエネルギーの分野で関係を強化しており、距離的にもウクライナ問題は対岸の火事であり、おそらく他の中南米諸国も同じような考えを持っていることだろう。ここに、G7とグローバルサウスの考えからの違いがある。

マクロンが中国で漏らした欧州の本音

また、G7諸国の中でも意見の違いがないわけではない。たとえば、フランスのマクロン大統領は中国に対する共同声明策定の際、中国との経済関係でリスクは低減できても切り離すことはできないとして、中国への懸念を抑える表現にするよう要請したという。G7サミットの直線、EUも切り離しを意味するデカップリングではなく、リスク低減を目指すリスキリングが現実的な選択肢だとの認識を示しており、中国に厳しい姿勢を貫く米国とは少なからず対中認識で距離がある。

ブラジルと同じように、日米と違い、欧州は中国の軍事的脅威に直面していない一方、中国との経済関係が極めて深い。サミット前、マクロン大統領は中国を訪問した際に国賓級の待遇を受け、緊張が高まる台湾問題についても、欧州は台湾で米中どちらにも追従するべきではないとの認識を示したが、これが欧州の本音とも言えよう。今回のサミットでは対中国でG7の中でも温度差があることが鮮明となった。

危惧されるG7の内部崩壊

以上のように、結果として広島サミットは世界の分断にいっそう拍車を掛けることになった。G7は以前、世界秩序を主導する立場にあったが、今日ではその姿はない。共同声明にあるのは対立国に向けての攻撃的メッセージであり、G7は既に対中露対抗網と化している。この姿は今後一層顕著になり、その存在意義は薄まり、最終的には内部崩壊しないかを筆者は危惧している。

image by: 首相官邸

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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