惨敗のトヨタと日本政府。なぜ水素自動車はEVに負けてしまったか?

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世界各国がEVシフトを進める中、あくまで水素燃料車の研究開発にこだわるトヨタと彼らを協力にサポートするかのような姿勢を見せる日本政府。しかしながら現時点での水素自動車の「勝ち」はほぼ見えない状況となっています。なぜ水素自動車はEVに惨敗を喫してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』ではWindows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、その5つの理由を列挙。さらに政府が目指す2050年までの水素社会の実現に関しては、「かなり無理がある計画」との見解を記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

トヨタと日本政府が強引に進めた「水素自動車」がEVに負けてしまった理由

先週、NHKスペシャル「ヒューマンエイジ 人間の時代」を観ました。最近のNHKスペシャルは中身の薄っぺらいものが多く、少しがっかりしていますが、これも同じでした。色々と面白いテーマには触れるのですが、何も新しいことは教えてくれないのです。

その中に、国がカーボン・ニュートラル戦略の一環として、アンモニアに注目しているという情報があったので、現状把握のために、ネット上でいくつかの資料を読みました。

  1. 資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」(2021年)
  2. 国際環境経済研究所「アンモニア:エネルギーキャリアとしての可能性
  3. 経済産業省「水素・アンモニアを取り巻く現状と今後の検討の方向性」(2022年)
  4. 旭化成「アンモニア社会への移行が炭素中立の鍵となるか」(2014年)各国の取り組み
  5. 科学技術振興機構「画期的なアンモニア合成法」(2020年)

一つ学んだことは、日本政府が、2050年を目標にしたカーボンニュートラルの実現に向けて、水素社会の実現を今でも真剣に考えている、ということです。Teslaにより「EVシフト」が急速に進んだ結果、(日本政府やトヨタ自動車が描いていた通りの)「水素自動車の時代」が来ないことは明らかなので、そろそろ戦略を大幅に変更しても良いと私は思いますが、日本政府はそう考えていないようです。

水素を利用した燃料自動車が、電気自動車に負けてしまった理由は、大きく分けて5つあります。

  1. インフラが整っていない(水素ステーション不足、家庭で充填出来ない)
  2. サブライチェーンが整っていない
  3. 貯蔵・流通コストが高い
  4. エネルギー効率が悪い
  5. グリーンではない(石油や天然ガスから作っている)

そんな中で、水素をアンモニアの形で貯蔵・輸送することにより、貯蔵・流通コストの問題を解決し、同時に、すでに肥料向けに国内外の存在しているアンモニアのサプライチェーンを活用しよう、という発想からアンモニアが注目されているのです。

水素は、そのままの形であれば、700気圧で圧縮しても1立方メートルあたり39.6kgにしかなりませんが、1立方メートルのアンモニアには、121kgの水素が含まれています。アンモニアは、常温1気圧では気体ですが、零下33度まで冷やせば液化するため、水素よりもはるかに貯蔵・輸送が簡単です。現在、船で輸入している液化天然ガスは零下161まで冷やす必要があるので、それと比べても十分に現実的です。

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