ベンツもBMWも国外へ“脱出”。ドイツから大企業が続々と逃げ出している深刻なウラ事情

 

この法案を推進していたのは、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)とガイヴィッツ建設相(社民党)だったが、主導者はもちろん緑の党で、ハーベック氏は何が何でも国会が夏休みに入る前の7月13日に可決に持ち込もうと意気込んでいた。また、ショルツ首相(社民党)のコメントも、「この暖房法案によってドイツのCO2削減目標が達成できると自信を持っている」というもの。ただ、本心だとはとても思えない。当然、国民はまったく納得せず、野党も、このような欠陥の多い未熟な法案を急いで通せば、後々、必ず弊害が出るとして強く反対していた。

ところが、冒頭のインタビューで緑の党のハッセルマン氏は、同法案がいかに重要、かつ有用であるかを啓蒙し、野党の反対は理解できないという態度を示した。氏によれば、ウクライナ戦争という非常時においては、多くの法案が急テンポで可決されなければならず、だからこそ、去年も数百の法律が可決されたわけで(国民は気づかなかった…)、つまり、この法案のスピード可決を問題にすることこそ、おかしいということらしい。

そもそもこの法案が閣議決定されたのは4月だった。それが6月半ばに国会に提出されたが、委員会の審議、専門家による鑑定、さらに国民の不満を考慮し、多くの修正がなされた。そして、ハッセルマン氏の説明では、その改訂版の発表が7月7日金曜日で、月曜日からいくつかの委員会の審議を経て、13日には採決という運びだから、つまり、十分な時間がとられているとのこと。しかし実際には、議員が改訂版に目を通す時間は週末の2日間しかないわけで、この法律の重要性を鑑みれば、十分な時間など取られていなかった。

実は、緑の党が急いでいた背景には、いくつかの理由がある。第一に、自分たちが与党にいる今のうちに、彼らにとって大切な政策をできるだけたくさん通し、緑の党のイデオロギーをドイツという国に不可逆的に刻印すること。これについてのわかりやすい例は、彼らが4月15日、エネルギー危機の真っ只中に実施した「脱原発」だ。

その結果、現在、電気が逼迫し、そうでなくても高かった電気代がさらに高騰し、競争力を失った企業は倒産するか、あるいはすごい勢いで外国に脱出し始めている。危機感を覚えるべきなのは、BASF(世界一の化学企業)など、これまでドイツの屋台骨であった化学産業や、やはりドイツが世界に誇ってきたメルセデス、フォルクスワーゲン、BMWなどといった自動車メーカー、その他、数々の優良企業が、こぞって中国、米国方面、あるいは近場では東欧などに生産拠点、および研究開発部門を移し始めたことだ。

大企業が出ていくと、付いていけない中小の関連産業が痛手を受け、倒産する。2023年には、12.5万人の労働者が倒産の影響を受けるという予測が出ているが、緑の党にとってみれば、ドイツからガスや電気をたくさん使う企業がいなくなるのだから、これは失政ではなく、善政の成果なのだろうか。

そして二つ目は、これから予定されているいくつかの州議会選挙の準備。ドイツには州(州扱いの特別自治市を含む)が16あるが、その地方政府の半数には、すでに緑の党が連立で加わっている。緑の党としては、是非ともこの輝かしい状態を維持、もしくは拡大したい。

ところが、最近、緑の党は全国的に支持率が暴落している。ドイツ経済がどうなろうとお構いなしの無茶な政策を推し進めているのだから、当然といえば当然なのだが、さらに暖房法案までが失敗すると、今後の地方選が非常に戦いにくくなる。つまり、緑の党としては、是非とも暖房法成立を成功の旗印に書き換えて、人気を回復したいところだ。だからこそ、何が何でも会期終了前のどさくさに紛れて通したい。

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