ベンツもBMWも国外へ“脱出”。ドイツから大企業が続々と逃げ出している深刻なウラ事情

Mechernich,,Germany,,October,26,,2022:,Two,Wind,Turbines,On,Rural
 

世界をリードする環境先進国として知られるドイツ。しかし行き過ぎた環境行政は、同国の経済に悪影響を与え始めているようです。そんな現状を伝えるのは、作家でドイツ在住の川口マーン惠美さん。川口さんは今回、連立与党を組む緑の党がゴリ押しする「暖房法案」がどれだけ欠陥だらけのものであるかを解説。さらに同党のこれまでの政策により大企業の「国外脱出」が相次いでいる事実を紹介するとともに、矛盾だらけのドイツのエネルギー政策を強く批判しています。

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

あのBMWや世界一の化学企業にまで“逃げられた”ドイツ。なぜ猛烈な勢いで企業が「大移動」を始めているのか?

議会における緑の党の派閥リーダーであるブリッタ・ハッセルマン氏が、公営第2放送ZDFのインタビューで、“暖房法案”について啓蒙的な説明をしたのは7月2日のことだった。“暖房法案”というのは、正式名を「建造物エネルギー法(GEG=Gebaudeenergiegesetzes)」といい、4月18日の法案成立以来、国中を大混乱に陥れているものだ。これに関しては、5月3日の本欄でもかなり詳しく触れた。

【関連】新築住宅でガスと灯油の暖房が原則禁止?ドイツ政府の打ち出す「暖房法案」は何が問題なのか?

法案の目的は気候保護で、具体的には、2024年1月より、新規に設置される暖房は、少なくとも65%が再エネでなければならないと定めている。ドイツは寒い国なので、ほとんどの家の暖房設備は大掛かりなセントラルヒーティングであり、燃料は、世帯の約50%が天然ガスで、約25%が灯油。しかし、ガスや灯油で65%が再エネ由来の製品などは、現在、存在しないので、この暖房法案が通れば、従来のガス暖房や灯油暖房は使えなくなるわけだ。そして、その代わりに推奨されているのが、ドイツ人にとっては耳慣れないヒートポンプ式の電気暖房だというから、大騒ぎになったのは当然のことだった。

そこで、与党は国民の反発を抑えるため、法案の中身をあちこち修正し、「現在、使用中の暖房設備は24年以降も使って良く、故障した場合は修繕することも許される」とか、「遠隔暖房が整備されている地域は、従来の暖房を将来も使い続けても良い」とか、「将来、水素で使える仕様のガス暖房器、あるいは、e-fuel(合成燃料)で使える灯油暖房はOK」などとし、国民の不安解消に努めた。遠隔暖房というのは、自治体や公社が大規模に熱湯、もしくは高温の蒸気を作り、それをパイプで周辺地域に供給し、各家庭の給湯と暖房に利用するシステムのことだ。安価で効率の良い熱供給だが、これは住宅の密集した地域でしかできない。なお、水素暖房やらe-fuel暖房などは、はっきり言って、まだ夢物語である。

その上、ヒートポンプによるセントラルヒーティングなど、これまでドイツ人の思考の中には全く存在しないものであったから、結局、法案が、改正されようが、されまいが、国民の不安は全く解消されなかった。政府が最終的にガスと灯油の使用を禁止して、電気によるヒートポンプを普及させようとしていることは明白だと、皆が感じた。

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