「語順で文章がわかりやすくなる」とは限らない日本語の悩ましさ

 

主語と述語を近づければ、わかりやすくなる?

②の「母は」という主語を「嬉しくなる」に近づければ、こうした紛らわしさがなくなるのではないか、という考えもあります。

②−1食事をしているのを見ていると母は嬉しくなる。

という具合に、「母は嬉しくなる」とすると、この部分の主語と述語(述部)は、②よりはっきりします。ところが「食事をしているのを見ていると」の主語を明示しないと文が成り立ちません。たとえば、

③子どもたちが食事をしているのを見ていると母は嬉しくなる。

「子どもたちが食事をしている」「母は嬉しくなる」という形で対比させなくては、文が成り立たないのです。しかし、こうすると「子どもたちが食事をしている」のを「見ている」主体が曖昧です。

ⅰ.子どもたちが食事をしているのを見ている/と母は嬉しくなる。
ⅱ.子どもたちが食事をしている/のを見ていると母は嬉しくなる。

③を意味のかたまりで区切ると、二通りの分け方ができます。ⅰでは、「子どもたちが食事をしているのを見ている」という意味のかたまりが生まれます。すると、食事をしているのが子どもたちなのか、他の誰かなのかが判然としません。その様子に対して「母は嬉しくなる」という構図になります。そのため、②の解釈とは齟齬が生まれます。

ⅱは「子どもたちが食事をしている」「のを見ていると母は嬉しくなる」というかたまりになります。すると後半の「のを見ていると母は嬉しくなる」という部分が曖昧になります。「見ている」と「嬉しくなる」という述部の間に主体の「母」が挟まれているので、不安定な文になってしまうのです。

結局、文意は明確にならない?

つまり、「母は嬉しくなる」というふうに、主語と述語を近づけても、文意が明確にはならないのです。改めて②を引いてみます。──(メルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』2023年7月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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