一億総「ハァ?」状態。経済オンチ岸田文雄は“支持率低下の原因”さえ理解していない

 

伝わってこない「どういう国にしたいのか」という首相の思い

ところで、ケインズは「需要の経済学」で、カネが増えれば消費は増える――政府が財政赤字を厭わずカネをバラ撒けばモノの需要を創出できるという発想で、これをヒックスやサミュエルソンらが定式化して新古典派総合の旧ケインズ経済学となった。アベノミクスを安倍に吹き込んだリフレ派というのもその奇妙な一変種と言えるだろう。

それに対立してきたのが「供給の経済学」で、その大元は19世紀フランスの経済学者ジャン=パティスト・セイの「セイの法則」すなわち「供給はそれ自ら需要をつくり出す」である。当然にも、政府による恣意的な市場への介入は否定されるわけで、その意味で今日的な新自由主義の潮流にも繋がってくる。彼の考えの前提は、カネはモノを買う以外には使い途のないもので、その退蔵は極めて例外的なことだというにある。しかし、小野が言うように、資本主義が成熟段階を迎えるとカネは退蔵されて当たり前になってくるので、セイの説は通用しない。

さて、岸田は今回の演説で車の両輪の1つに「供給力の強化」を挙げ、そのための対策に「軸足を移す」と言った。上述のように、リフレ派はカネを増やせばモノの消費が増えるという「需要の経済学」の一種だったことを思えば、岸田はそこでかすかに反乱を起こして、「供給の経済学」に飛び移ろうとしているのかもしれない。

しかしそこで彼が列記している「供給力の強化」とは、

  1. 半導体や脱炭素など安保関連の大型投資
  2. 賃上げ促進の減税措置
  3. 戦略物資への投資減税
  4. 特許所得への減税措置
  5. 中堅・中小企業の省力化投資に対する補助制度
  6. AI、自動運転、宇宙、中小企業の海外展開などの取組やスタートアップ支援
  7. 金融資本市場の変革など金融リテラシー向上に向けての法案成立
  8. 三位一体の労働市場改革、企業の新陳代謝促進、物流革新など生産性引き上げのための構造改革……

などで、どう見てもこれは、何の戦略性も立体的な政策的連関もなく、ただ役所が重点施策にしたい項目を表題だけ並べただけの勧進帳に過ぎず、「どういう国にしたいのか」という首相の思いは全く伝わってこない。

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