既定シナリオではなく「掴んだ藁」
そうなると、例えばですが、茂木も石破グループも対抗できずに、9月の総裁選は無風で岸田ということもないわけではないのだと考えられます。
仮に、その「お詫び選挙」において、安倍派の7人衆は苦戦するかもしれませんが、スキャンダルで名前の出ていない人は選挙に通るかもしれず、そうなれば岸田は恩人ということになるかもしれません。
そこで岸田が「挙党態勢」なる言葉を持ち出して、何となく人気者を配した内閣を作ればそれなりの支持率にカムバックすることはあり得ます。
また、3月の決算が終わり、4月の賃上げも「ある程度に抑制」できれば、その後は円高政策に転換して、物価を抑制するなどという冒険も可能になってきます。
しかしながら、話がこのように進むかどうか、具体的な可能性は不明です。
岸田氏にしても、昨年暮れから現在に至るドタバタ劇というのは、特に仕掛けた展開というよりも、状況に応じて受け身的に漂ってきた中で「掴んだ藁」というような話だと思います。
それでも残る最大の問題
問題は、3つ残ります。
1つは、こうしたドラマは一過性のものだということです。特殊な状況(裏金疑惑、震災)という偶然を受けて、とにかく誰もが予見していなかった奇手(派閥解消と、もしかしたら解散)を使って、政治的に延命を図っているというのは、とにかく一過性の問題であって、それで政治が回っていく保証はないと言えます。
9月の総裁選は乗り切っても、25年7月の参院選まで持つのかは全く不明だからです。
もう1つは、結局はこの間のドタバタを通じて、政策論議は何もされなかったということです。
震災を受けて再びエネルギー多様化論議は押し戻されそうになっています。自衛隊は感謝されているにしても、それで防衛費増額に世論の理解が深まったわけではありません。円高シフトもまだまだタイミングの難しさがあります。
何よりも、震災で明らかになった地方の経済疲弊と過度の過疎高齢化に対して、この国をどのように持っていくのかという議論は極めて限定的です。
例えばですが、このような状況で総選挙をやれば、被災地ではフル復興のパッケージが公約されて、民意のオーソライズを経てきてしまいます。また政治資金規正法に関しては、やや強化というだけの案で押し切られそうでもあります。
1番の問題は、仮に派閥解消をやって、岸田氏が「挙党態勢」なるものの構築に成功したとして、自民党内での「総理総裁の選出」をどうするのかという問題は全く解決しないということです。
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