欧米諸国が恐ろしいほど理解していない「ウクライナの戦い」の構図
1つは【2014年以降、ウクライナの領土の統一を阻むロシアの殺人マシーンを打ち負かすための戦い】です。
これは先ほど触れたような“なりふり構わず、残虐な手段を用いてでも目的を叶えようとするロシア政府、特にプーチン大統領とその取り巻きとの戦い”であり、やっと国として存在することになったウクライナとその国民を守り、そして後方で耐え忍ぶ家族を守るために戦い続けるという【対ロシア戦争】です。
こちらについては、予想された以上に持ちこたえ、すでに2年が経過していますが、ロシアによるクリミア併合から数えると10年にわたって、ウクライナはonとoffでロシアという巨大な隣国と戦い続けていることになります。
この成功のためには、ウクライナの存在を支援する国々や地域からの膨大な軍事支援によって、ロシアとの兵力・戦力差を埋め、可能な限り対ロシアでevenな状況を作り出してあげる必要があります。
それが今、決定的に足りず、著しく遅れています。良くも悪くも欧米諸国とその仲間たちは、ここぞというときに非常に慎重になっており、ウクライナがロシア軍を押し返す波に乗った時でさえ、振り返っても誰もいないという悲しい状況が続いています。
では2つめの戦争とは何なのでしょうか?それは【旧ソ連が残した負の遺産との激しい戦い】です。
腐敗の蔓延。独裁的な統治構造。国家支配を狙う一部の権力者に有利な不平等な状況。思想と言論、そして開かれた社会に対する弾圧。
これらと決別するための戦いが、実はウクライナ建国以降、ずっと続けられています。
それを阻んできたのがプーチン大統領とその取り巻きであり、ウクライナ国内政治に介入して親ロシア政権を作り、モスクワの影響力をキーウに及ぼす仕組みを堅固にしてきました。
ウクライナが民主化を図り、親欧米路線を取ろうとしたオレンジ革命を潰し、クリミア併合以降、ゼレンスキー大統領の下、進められる親欧米路線を潰しにかかっていますが、ロシアに攻撃されているにもかかわらず、ゼレンスキー大統領の方針を覆そうとするロシアン・エージェントがまだウクライナの権力構造に巣をつくって影響力を及ぼそうとし、国内を著しく混乱させ、団結をかき乱しているのが、2つ目の戦争です。
今、ウクライナ国民はこの2つの戦争を同時に戦っているのが現状ですので、この戦争を終結に向けて進めるには、これら2つの戦いを一体にして対応する必要があります。
この構図を見つけるまでに2年以上かかってしまいましたが、この構図を欧米諸国とその仲間たちは恐ろしいほど理解できていないように感じます。
その理解不足が軍事支援面でも、経済的な支援の面でも裏目に出るという失態に繋がっています。
まず軍事支援面ですが、その証拠にウクライナがロシアからの脅威に立ち向かうための軍事支援が不十分で中途半端であるだけではなく、その供与に非常に時間が掛かってしまうため、ここぞというチャンスを活かしきれず、それをロシアに付け込まれるという悪循環が続いています。
特に戦争初期に対ロ制空権を掌握しておく必要がありましたが、それに必要とされる戦闘機の供与(F16など)も躊躇し、ロシアのミサイル拠点を攻撃できる弾道ミサイルの供与も怠ったため、結果として、キーウをはじめとするウクライナの主要都市と物資の供給網、そして重要な戦力的インフラ(電力など)がロシアによるミサイル攻撃の餌食になりました。
ウクライナは必死にそれらを復旧して耐えるという行動を繰り返すことになりますが、もし制空権を初期に掌握することが出来ていたら、随分戦況は違ったでしょうし、今頃、戦争はウクライナ有利に終わっていた可能性があります。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ