ウクライナの人々を悲劇に陥れた不十分で中途半端な支援
では“非常に厳格な”はずの対ロ経済制裁はどうだったでしょうか?
正直、厳格とは程遠いと言わざるを得ず、多くの欠陥が存在し、多くの抜け道・抜け穴が存在しただけでなく、強制力が乏しいため、欧米諸国とその仲間たちの国内企業は制裁を回避して利益を得るビジネスを拡大して莫大な富を得ましたし、その代金がロシアに還流するという仕組みの一部を構成してしまうという状況でした。
EUについては、2022年から23年にウクライナに対して行った経済・軍事支援の総額の2倍が、ロシアからの原油・天然ガスに対する支払いとしてロシアに流れ、結果としてロシア経済が潤うことになるという悪循環の中心的な役割を担うという皮肉な状況の主役になってしまいました。
もちろん、EUのみならず、ロシアと経済的な戦略パートナーシップを有する中国や、イラン、OPECプラスの国々、そして実利主義のグローバルサウスの国々もロシアとの取引を続けたため、ロシア経済が困窮する仕組みは成立しませんでした。
その証拠にモスクワやサンクトペテルブルクは日常通りの生活が成り立ち、経済的な困窮も感じないというbusiness as usualが成り立つため、それがプーチン大統領の支持率にも直結するという状況を生み出しています。
そして欧米諸国とその仲間たちは、ロシア中央銀行が保有する外貨準備約3,000億ドル(日本円では約45兆円)を即座に凍結したものの、それをウクライナの戦後復興のために使うという強制措置の発動をまだためらっているのも、対ロ経済制裁が全く機能しない一因になっています。
ロシアへの遠慮なのか、戦争に負けてもロシアがなくなることがないと考えて、報復を恐れているのかは分かりませんが、私が理解できないのは、「なぜ2年前に凍結した後、ロシアに明確なメッセージを送り、欧米諸国とその仲間たちの覚悟の強さを示すためにロシアの外貨準備を接収にしなかったのか」ということでしょうか。
遅すぎて不十分で中途半端な支援は、ウクライナの努力の成果を削ぎ、2年以上にわたってウクライナの人々を離れ離れにさせるのみならず、徹底的な悲劇に陥れてしまっています。そして今、支援疲れや各国の国内政治事情により、ウクライナの悲劇は人々の関心からなくなり、ウクライナは非常に孤独でかつ出口の見えない戦いに追いやられています。
――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年3月8日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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