中国やイランだけじゃない。ウクライナへの支援総額の「倍額」をプーチン側に流したEUの大罪

 

ウクライナ軍が前線で直面している「異常な状態」

そして、昨年6月にウクライナが対ロシア反転攻勢に出る際にも、ウクライナの戦いを後押しするための武器弾薬を供与し続けるための増産にすぐに踏み切ることはせず、最近になってEUが500億ドル規模の支援に合意しますが、その支援を通じて武器弾薬が増産されるのは早くとも今年末から来年春先になると言われていますし、NATOが合意した支援も、武器生産支援が本格稼働するのは2027年と言われているため、遅きに失したと言わざるを得ないでしょう。

ウクライナ軍の前線から入ってきている窮状は、深刻な砲弾と弾薬不足であり、追加動員も大幅に遅れていて、極度に疲弊した兵士たちが武器弾薬も足りない中、ロシア軍と対峙し続けるという異常な状態です。

反転攻勢当初、ロシア軍に大きな被害を与えたアメリカ製のM777りゅう弾砲も急速にout of stockに陥り、今では使えない状況になっていますが、そのような状況をロシア軍に突かれ、攻撃の格好の的になってしまっているようです。そして何よりも反転攻勢のピーク時には一人の兵士が平均週に400発以上の攻撃をしていたのが、今では週に15発がいいところとなっていると言われています。

「戦わなければ家族が危ないし、ウクライナという母国が消滅する」という思いからひたすら戦っているのが現状ですが、このような窮状を作り出したのは、中途半端な支援に終始している欧米諸国とNATOの落ち度ではないかと思います。

そして最近、呆れてしまったのが遅すぎる政治的なバックアップです。2月20日だったかと思いますが、NATOのストルテンベルグ事務総長が「国際法はウクライナが侵略戦争から自国を守るために、その侵略国内の軍事施設を攻撃することを認めている」という認識を示しましたが、これ、なぜ2年前に早々に認めて、欧米諸国とその仲間たちが対ロで断固とした態度・対応を取る基礎にしなかったのか、全く理解できません。

2年前と国際法は変わっていませんし、もしウクライナが“自衛のために”ロシアの軍事施設を攻撃することを認め、欧米諸国とその仲間たちがその努力を支えていたら…。

また別の“たられば”が出てきます。

ただ「ロシアを過度に刺激したくない・するべきでない」というロジックの下、ウクライナに対する支援は慎重かつ限定的であり、とても兵力差で圧倒するロシアの切っ先を制するほどの覚悟はなかったと言えますが、別の言い方をすると「見事にプーチン大統領のロジックに乗せられた」とも言えるかもしれません。

その背後にあるのが、時折出てくるプーチン大統領による“核使用の威嚇”です。

「NATOがウクライナに入るようなことがあれば…」「ウクライナがロシアに攻撃を加えるようなことがあれば、それはNATOによるロシアへの宣戦布告と見なし…」と必ず「…」には「ロシアは核兵器の使用を躊躇うことはない」という脅しです。

その核兵器の脅威の効果が、欧米諸国とその仲間たちを慎重にさせたのだと考えます。

最近はロシアの優勢が至る所で伝えられ、またロシア大統領選挙も近いため、プーチン大統領の口が軽い気がしますが、2月29日の所信表明でも、核のお話は頻出します。

「西側によるウクライナへの介入の強化は、核兵器による紛争を引き起こす可能性を生む」という、先日のマクロン大統領の発言に釘を刺すような内容に触れ、加えて「戦術核はもちろん、(NATO加盟国を直接攻撃できる)戦略核兵器も完全に準備が済んでおり、いつでも発射できる状態にある」と発言し、欧米諸国とその仲間たちにさらなる核兵器の牽制を行っています。

このような核兵器使用の威嚇により、欧米諸国とその仲間たちは、ウクライナ情勢のみならず、東欧情勢にとって手遅れになりかねない局面で、対ロで非常に慎重になりすぎてしまった感があります。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • 中国やイランだけじゃない。ウクライナへの支援総額の「倍額」をプーチン側に流したEUの大罪
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け