裏返せば検察を騙そうとしていたことになる財務省
以上から推測できることは、第1回開示の2,255ページというのは、どうも、事件当時に財務省が検察に提出した文書そのもので、その時点ですでに安倍夫妻はじめ政治家の圧力を示唆するような部分は切り取られていたのではないかということである。だから、NHKの取材に対して財務省は「検察に提出した資料から意図的に隠していることはない」という言い方で、検察に出したものと今回の公開資料とは同じものであってそこからさらに新たに削った部分はないかのように胸を張っている。
しかしそれは裏返せば、財務省は検察を騙そうとしていたということになるわけで、メディアも国会もそこを徹底的に究明して国民の眼に晒け出さなければならないだろう。
この関連文書は17万ページの紙及び電子データに上ると言われる。とすると今回はほんの序の口で、第2回は6月上旬で6,000ページと予定されているが、それを含めてもまだようやく閉ざされた扉の錠が開いたというところである。
日本を殺す安倍政治の負の遺産
森友学園事件の真相が解明されるのは結構なことではあるけれども、安倍晋三という不出来な首相がとっちらかした負の遺産は余りに沢山で、それが全体としてこの国が前に進むのを阻害しているという状況の、これは氷山の一角に過ぎない。
岸田文雄前首相がひたすら安倍に忠誠を誓って禅譲を期待するような軟弱な人物であったのは仕方がないとして、自民党内で一貫して反主流=反安倍派で反骨を通してきたと評価されてきたはずの石破もまた「安倍政治&アベノミクス」を綺麗さっぱり清算することに取り組めないでいるのは残念なことである。
森友学園事件は、安倍夫妻のお友達である籠池夫妻に首相権限を用いて恩恵を与えようとする「縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)」の醜い実例だが、同じことは、
- 彼の40年来の友達だった加計学園の加計孝太郎に獣医学部の新設を特別許可したこと、
- 同じくゴルフ仲間の日枝久=フジサンケイグループ元代表テレビと組んでお台場にカジノ・リゾートを誘致しようと企んだこと、
- 反共反中国思想の師である故・葛西敬之=JR東海元会長の言いなりに安倍が第1期トランプ政権に売り込んだ「テキサス新幹線」計画がこのほど完全破綻したこと、
など、安倍のお友達プロジェクトは死屍累々で、その後始末は国民に余計な負担としてのしかかってくるのだが、それを全部取り纏めて安倍の無駄に長いだけだった治世のツケと捉える認識は形成されていない。
国会は、旧安倍派を中心とする裏金体質の解明が進まないことが一因となって国会が無駄な時間を空費しているし、経済面でも「減税ポピュリズム」の競い合いのような瑣末に堕してポスト資本主義時代の大戦略など話題にも上らない。それもこれも安倍政治、アベノミクスの根本的な間違いを徹底総括することが出来ないが故に前に踏み出せない「安倍忖度症候群」という重病に陥っているがためである。
外交面はどうだろうか。安倍が馬鹿騒ぎを演じた挙句に北方領土交渉は対話の糸口もない断絶状態だし、北朝鮮との拉致問題も彼の「やっているフリ」で被害者・家族の方々を騙し続けるという卑劣の果てに出口を失ってしまったし、何よりも安倍の第1期トランプへのベッタリ癒着路線で一段と深まった対米従属路線が、ここへ来て第2期トランプ政権の狂乱状態に対する日本としての冷静な対応を難しくている。
何もかも「安倍が悪い」とするのは度が過ぎるとは思うけれども、今この国が陥っている障害物競走上の困難のほとんど全てに安倍の影がのしかかっているのは事実で、そこをよくよく見極めないと議論は進まない。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年4月28日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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