甘利氏のTPP交渉は「本物」だったのか?公開された条約文でわかった恐怖

 

いずれにせよ、政府の試算たるものが、TPPの効能を宣伝するための作り物にすぎないことがわかる。日本のメディアは合意内容をどう報じたか。あらためて確認してみた。

● 2015年10月5日産経ニュース

 

難航してきた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉がついに終止符を打った。…アジア太平洋地域に21世紀型の経済秩序を築くTPPは…地域の繁栄と平和を実現する原動力となり得る。…関税が撤廃され、貿易手続きが簡素化されることで、消費者には輸入品が安く買える恩恵が見込まれる。工業製品などを輸出しやすくなり、国内の雇用や収入にも好影響が期待される。

● 2015年10月6日朝日新聞デジタル

 

コメについては、関税を維持したうえで日本が米豪向けに無関税輸入枠を設定。米国向けは当初5万トンで、13年目以降は7万トンにする。(中略)いまは38.5%の牛肉関税を16年目以降に9%、低・中価格の豚肉の大半は、1キロ最大482円の関税を10年目以降に50円に下げる。(中略)一方、日本が撤廃を求めていた米国向けの自動車関税は、いまの2.5%を15年目から段階的に削減し、25年目に撤廃することで決着した。

いずこも関税の話が中心である。たしかに、重要農産品や自動車は日米首脳会談で「センシティビティ」と表現されたTPP交渉の焦点であろう。それぞれの業界関係者の関心が高いのはもちろんだ。

だが筆者は疑い深い。TPPへの記者の関心を関税問題だけに向かわせる誘導が政府によって行われているのではないか。条文を読む限り、とても日本の利益が守られるとは思えないのだ。

おそらく、締め切りに追われる記者クラブの連中にはじっくり中身を吟味する時間などないだろう。しかも、協定内容の原文は外国語であり、仮の邦訳が最近になってようやく出てきたばかりである。役人が用意したレジュメを見ながらレクを聞き、いかにも分かったように書いている。それが実情であるに違いない。その結果、政府の評判が落ちないよう意図された作為的発表を真に受けた記事ができあがり、メディアの拡散で粉飾情報が広がってゆく。

関税の率については7年後、相手国に求められれば再協議する約束があり、事情が変わるかもしれない。

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