「延期」の刺激がもたらした情報という意味ではメディアが持ち上げるように小池知事の功績といえるかもしれないが、おそらく、小池知事は想定外のことに一時は困惑しただろう。
普通の知事ならすぐに担当者を呼び、説明を聞くはずだ。敷地内すべて盛土をほどこすと説明してきたのに、なぜ空洞が建物の下に広がっているのか、と問いただすだろう。
小池知事もそうしたに違いない。新参の知事であっても、今や都職員を率いるリーダーである。過去のこととはいえ、いつまでも他人のしでかしたこととして片づけられるわけがない。
2011年の基本設計時、すでに建物地下の空洞が図に描きこまれていたという。そのいきさつを知る職員から、知事が話を聞くのは簡単なことだろう。
だが、空洞の意味についてはなにがしかの説明ができても、なぜ都民への約束と異なるのかとなると、言葉を濁すかもしれない。誰もウソの責任を背負いたくないからだ。
「人生マーケティング」を標榜する小池百合子は気を取り直し、脳内コンピューターをフル稼働させたに違いない。
ここは「ブラックボックス vs 正義の小池」という都知事選から続く小池劇場をそのまま演じるしかない。都の組織とは一線を画しておこう。調査チームに追及させて過去の都政の膿を出す「東京大改革」のイメージを強調するのだ。
小池知事は9月10日にこの問題を暴露する緊急記者会見を開き、今後の対応についてこう述べた。
「専門家会議の方々に安全なのかどうか、お調べいただきます。一方で、新しいプロジェクトチームの方々にはそれぞれのご専門から、この安全性、そして豊洲そのものの安全性と、それから妥当性、価格などの問題点、コストの問題をお諮りするということで、二段構えになります」
二つの有識者チームをつくればうまくいくなら、こんな事態にはならなかったはずだ。石原慎太郎都知事の時代、専門家会議と技術会議があったにもかかわらず、結局は都当局の思うようにコトを運ばれ、いつのまにか建物地下にコンクリート空洞ができていたのだ。
要するに、すべてを統括する責任者が明確でないまま、会議やチームで議論しても、縦割りの弊害に陥りやすい担当当局の議事運営に左右され、その末に、まずい事態を招けば、責任のなすり合いに終わるのがオチであろう。