数カ月遅れで着工しても、環状2号線を五輪前に完成させることは可能だろう。だからすんなり「延期」は決まった。だが、問題はここから先だ。少しの間、延期すればすむというものではない。
そもそも、豊洲市場移転計画そのものに欠陥があった。移転する東京ガス跡地は、かつて石炭から都市ガスをつくっていたところだ。ガス生成の副産物である有毒物質が垂れ流され、長年にわたり土にしみ込んでいる。
いくら盛り土などの対策を講じようと、大地震の液状化現象など、何がしかの圧力がかかると地下汚水は噴水のように湧きあがってコンクリートを貫通し、地上に滲み出すものらしい。地中深くに危険が眠ったままなのだ。
移転賛成派の卸業者でもこの先、不安はぬぐえないだろう。利用者も心のどこかに汚染の心配をかかえていなければならない。
これは一体誰の責任なのか。歴代の都知事は何をしていたのか。
青島都知事時代に豊洲への移転の検討が始まり、石原慎太郎都知事が計画を決定、舛添要一都知事の時代に着工した。
計画を決めた石原慎太郎に責任があるのはもちろんだが、猪瀬、舛添のときにも、見直しはできたはずである。
雨漏りするほど築地市場の老朽化が進んでいるのは間違いない。50年近くも前から、移転の話が持ち上がりはじめていたとも聞く。
だがいまや、築地市場は「世界の東京」の魅力のひとつになっている。豊洲の新施設は規模こそデカいが、建設費が当初の予定より何倍にもふくれあがり、その裏にゼネコンによる談合の復活が指摘されている。
オリンピック施設と同じように資材や人件費の高騰がさかんに喧伝されるが、入札の落札率が90%以上になっており、談合が強く疑われる。
都民がなけなしのカネを出し合って集めた税金を、ゼネコンがむさぼり、そこに議員たちが顧問や役員として関わって報酬や政治献金を受け取る。そして担当部局の役人たちの天下り先にもなっているという構図だ。
本来なら、そうした利権にメスを入れるのが、都知事選で小池百合子が公約した「東京大改革」の根幹であるはずだ。
築地市場の豊洲移転への対処は、小池の改革本気度を見る試金石であるわけだが、疑い深い筆者は小池が見せかけだけの「東京ミニミニ改革」くらいで、お茶を濁しそうな気配を感じるのである。
小池は、東京オリンピックを成功させることが政治家としていちばん世間に評価され、栄光の道につながると、お得意の「人生マーケティング」を描いているだろう。