そもそも、加計学園の獣医学部新設が国家戦略特区の事業として胸を張れるのであれば、「総理の意向」と記された文書が出てこようと、加計学園の理事長が総理の友達だろうと、オタオタして、隠ぺいする必要などまるでない。
国家戦略特区は総理がトップダウンの権限を持っているのだから、「総理の意向」が強ければ、実現するのは、ある意味当然だ。
加計学園にしかできない獣医教育が可能で、それが重要な国家戦略だというのなら、国民にそれを分かりやすく説明すればすむ話ではないか。それをしないで、隠したり、ごまかしたりするから疑惑が深まるのだ。
シラをきったあげくメディアに文書が出てきて、前川氏が出所と疑い、読売新聞に彼をおとしめるための、どうでもいい下ネタ記事を書かせるようリークするやりかたは、いかにも姑息というほかない。
週刊現代6月10日号によると、朝日新聞が文科省の内部文書について第一報を出してすぐ、菅官房長官は内調を統括する内閣情報官、北村滋氏と、第二次安倍政権発足時に菅氏の官房長官秘書官をつとめた中村格警察庁組織犯罪対策部長に会った。そのさい菅氏は「朝日のネタ元は分かっている。マスコミと通じているなんて、看過できないよな」と二人に話したという。
これを受けて、彼らが「出会い系バー」の情報を流したのであろうという推測を同誌は書いているのだが、この件については前川氏自身が「在職時、杉田和博官房副長官から厳重注意された」と言っており、内調では既知の情報だったに違いない。
それにしても、要注意人物のスキャンダル情報をすぐに出せる監視行為が警察庁や内調で日常的に行われていることを思うと、一般市民にまで監視が及ぶ共謀罪法案が成立しそうな雲行きだけに、いっそう不安がつのる。
昔なら今回のような問題が起きると、自民党内で批判が強まり、派閥抗争に発展した。総理大臣のポストをめぐる力学が、緊張感を高めた。
いまの自民党には、安倍首相に反旗を翻すツワモノの姿がほとんど見当たらない。党は官邸に従属し、安倍首相の周りには関東軍の参謀のようにマッチョな側近が仁王立ちして敵を撃退していく。
もちろんそこに良心とか知性というものはなく、見る人が見ればわかるウソや強弁を繰り返し、強硬にコトを推し進めるだけである。問題は起きても、そのうち国民は忘れてくれるだろうと高をくくっているのだ。
それでも、国民はいまだ、安倍内閣に高い支持率を与え続けている。この、いじらしいまでの信頼度は、どこから生まれてくるのだろうか。