中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話

中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話

  • 週刊文春で連載されていた新女王シリーズが読める
  • 人生相談が受けられる
  • 直接メールでメッセージや質問を送れる

うさぎさんは以前も「占い」をテーマにしたメルマガを配信されていましたが。

そうなんです、ちょっと失敗しちゃったんです。信じてないくせに占いをテーマにするなんて不謹慎なことしたおかげで、途中でネタに詰まってしまいました(笑)。

それから1年くらいの間がありましたが、新たなメルマガを配信されたきっかけはなんだったのでしょうか。

ひとつは週刊文春の連載が終わったので、その続きを書きたいなと思ったんです。それとは別に、たとえば動画や音声の配信にも前々から興味があったんですけど、なかなかチャンスがなくて。でもメルマガでなら可能だな、という感じで始めました。

メルマガ内では人生相談もなさっていますが、大変面白く読ませていただいています(笑)。

そうそう、相談してきた人に「大きなお世話です」とかって、回答してない(笑)。まあ普通の人生相談って、その人の悩みを解決してあげるというのが目的なんだと思うんですけど、私は元々悩み事なんて本人が解決しなければどうしようもないって考えてるから、人生相談ってあんまり意味がないと思うの。

ただ、「なんか愚痴を言いたかった」とか、「話を聞いてほしかった」という気持ちを拾っていって、悩んでる人に「同じような悩みを抱えている人は世の中にいっぱいいる、自分だけじゃないんだ」と思ってもらえるとか、最終的には自分で決めなきゃいけないことなんだけれど、ちょっと視点をずらすだけで違うものの見方ができて違う結論も出る、みたいな話ができたらいいなと思ってはいます。でも私の人生相談は結局何の役にも立ってないんですよ、「こうしなさい」とか一切言ってないんで(笑)。

なるほど。ところで読者の中にはこの2年ほどの間にうさぎさんの身に起こった出来事について詳しく知らない方もいると思うので、お話しできる範囲でお願いできますか?

死にかけた話ですか?あれは結局病名も未だに確定してないし、なんで3回も死にかけちゃったのか誰にもわからないんですけど、原因不明の病気でいきなり呼吸が止まったのが2回と、あともう1回は心肺停止、除脳硬直っていう、ざっくり言えば脳死状態みたいなことになって、多分意識は回復しない、植物状態になってしまうか、あるいは回復しても重い後遺症みたいなものは残って、半身不随になるとか言葉がしゃべれなくなるとかお医者さんは言っていたらしいんです。大阪に住む両親ももうすっかり娘が植物状態になると思い込んでいて、「まあしょうがないから家で引き取るか」なんてことも考えていたらしいんですが、意外と普通に目が覚めちゃった。

目が覚めたばかりの時のことはさすがに薬とかが入ってるんでちゃんと覚えてないんですけど、徐々に呼吸器とか鼻のチューブとかも取れて、見舞客に毒舌を吐いたりするまでに回復しました。周りは「変わってねーじゃんこいつ」って。死にかけて澱がなくなったように、つきものがとれたような柔らかい人格になってるかといえばそんなことは全然なく、相変わらずだなってことが皆さんお分かりになったようで(笑)。

私の中で変わったことといったら、昔は「死ぬことが怖い」ということはなかったんですけど、「死ぬってどういうことなんだろう」っていう不安があったとは思うんです。でも死ぬという体験は、ってまあ「あれは死んでないんですよ、お迎えが来なかったんだから」と言う人もいるんだけど、ともかくプツッとテレビのモニタを切るみたいに真っ暗になっちゃうみたいな感覚で、けっこう心地良かった。それまでは全身が痛くて苦しんで大騒ぎしてたのに、急にふっと楽になって、真っ暗の闇の中にすうっと吸い込まれていく、みたいな感覚。だから死ぬってことが前ほど怖くなくなったって言うか、「こんなに楽なことだったら別に死んでもいいじゃん」と思うようになりましたね。苦しみや痛みから解放されますしね。

中村うさぎさん

でも、生きてるってことって、苦しみや痛みもあるけど、すっごく楽しいこととか嬉しいこともあったりして、それとセットじゃないですか。死ぬってことは苦しみから解放されはするけど、喜びとか楽しみも失うことでもあるから、生き返っちゃった以上は、今度死ぬことになる時まで楽しいことも苦しいことも味わえるだけ味わって、そして死ぬときはすべてから解放されて無感覚の闇みたいなものに吸い込まれていくみたいな、そんな人生設計を立てるようになりました。で、まあ何をやっているかと言うとドラクエばっかりなんですけど、楽しいんで(笑)。

死ぬことについて考えるということは生きることについて考えるってことだから、今回はなかなか稀有な体験でしといてよかったなと今では思ってますね。あとは……、なんのために生きるのか、みたいなことなんだけど、私はずっと自分のためだけに生きてきたし、自分のことしか考えないから自分の欲望を片っ端から満たして飽きたらまた次に移る、というような人生を歩んできたけど、それだけでは生きていくモチベーションみたいなものが希薄になってきちゃうんです。だってやりたいことやりつくしちゃった時「なんで生きてるんだろう」ってなるじゃないですか。そうそうドラクエに救われるわけにもいかないので(笑)、誰かのために生きるとか、誰かが私に生きていてほしいと思ってくれる、みたいなことが生きる支えになるんだなって今回の件で思いましたね。まあそれは夫だったりするんですけど。

私のまわりのシングルの女の子とかゲイの友達の間で最終的に問題になるのは、自分が死ぬ時に誰かにそばにいてほしい、看取ってほしいということなんです。シングルの女性やゲイの人たちの中でも、自立というものをテーマに頑張ってきた人はいっぱいいると思うんですけど、やっぱりある程度の年になると、死ぬ時に「ありがとう」と言える相手がいるっていうのも大事なファクターになってくるから、これからはそういうパートナーシップを模索していくみたいな形になっていくんじゃないかな。私自身ももし一人暮らしでパートナーがいなかったら、もうどこにも一人で行けないし、無力感で生きてるのが嫌になっちゃったと思います。今回の体験で、生きていくには他人の支えのようなものが必要だなと思ったこともありますね。そういうこともメルマガには書いているつもりです。照れくさいんですけどね、私がこんなきれいごと書くなんて。ま、そういう真面目なコンテンツもあり、一方では人生相談してきた人に「大きなお世話だ」って言っちゃうようなふざけたものもあり、のメルマガです(笑)。

メルマガと雑誌との違いは感じられますか?

メルマガは文字数がそんなにシビアじゃないですよね。雑誌って指定された文字数通りに書かなきゃいけないので、字数制限で書きたいことが上手く表現できなかったり、逆に短くて済むような話を無理矢理長くのばしたりとかっていうのがあるんですけど、メルマガにはそれがないのがありがたいですね。

あとはやっぱり雑誌だとスポンサーの問題ですね。ある雑誌で私が自分で買ったブランド物をこきおろしてた時期があったんですけど、とあるブランドが広告を出しているのでそこには触れないでほしいって言われたことがあって、まあ従いましたけど、結局世の中ってそういうことだよねって思っちゃいました。でも個人のメルマガだったら、私自身には誰もスポンサーついてないので言いたい放題ですよね(笑)。

そんなうさぎさんのメルマガ、どんな人に読んでもらいたいですか?

どんな人にって言われれば、それはいろんな人にって思うんですけど、今まで私の本を読んだことがない人にも、これをきっかけに読んでもらったりすると嬉しいなとは、商売的に思ったりしますし、でも多分そんな人たちは私のメルマガを定期購読しようとは思わないので、やっぱり結局メルマガの読者もずっと読み続けてくれてる人たちになっちゃうんですかね(笑)。

本は読んだことないけどテレビで見て私を知っている、という人はいると思うので、そういう人がメルマガを読んで「あ、文章ではこういうこと書いてるんだな」なんて思っていただけたらありがたいかなと思います。

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中村うさぎさん 作家プロフィール

うお座 AB型小説家、エッセイスト福岡県出身同志社大学文学部英文学科卒業OL、コピーライター、雑誌ライターなどを経て、1991年にライトノベル作家としてデビュー。「ゴクドーくん漫遊記」で人気を博す。ライトノベルを中心に作品を発表していたが、ショッピング依存症、ホストクラブ通いなどの浪費家ぶりや、自らの美容整形について赤裸々に書いたエッセイを発表。

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