もし私がこうした製造業に提案するとしたら、親子関係という現実論を理解した上で、逆発想型のアプローチをとるだろう。平たく言えば、大きな山を動かす前に、まずは小さい成功(クイックウィン)を狙い、親会社が聞く耳を持ち始めてから、親会社との関係を変える(本質的な課題に食い込む)というアプローチをとるだろう。
というのは、私の経験からいって、この販社のように、「構造的に」動きにくい組織というのは、現場の小さな失敗やミスを、親子関係など「本質論」に転嫁し、現場がやる気を失い、総評論家になっていることが多いからである。
例えば、ある地方の機能素材メーカーの改革をやったときの事例をご紹介しよう。その素材メーカーは、今回の質問者と全く同じ課題が起きていた。販社の現場は、親会社の指示が一方的で、顧客の細かい要求に応えられないと文句ばかりいっていた。
しかし、現場に入ってよく見てみると、顧客の細かい要求に応えすぎるあまり、同じような製品の派生品が3000パターンもあり在庫過多になっていた。また、値段も現場が「顧客第一主義」の名の下に、都度対応で適当に決めていたため、値引き販売のオンパレードと化していたのである。
しかし、現場はこうした細かいところに目を向けず、「何をやっても本社はきいてくれない」と本質論に責任転嫁し地道な改善努力を怠っていた。このケースが難しいのは、販社の現場が感じている本社への不満は、決して間違っていないということだった。
こうしたケースの場合、強烈なリーダーが現場に入り込み、現場に勢いをつけ動かしてゆかねばならない。結局、人を変えられるのは「戦略」でなく「人」だからだ。当時、販社にはそうしたリーダーがいなかったので、私自身が社員寮に住み込み、腕まくりをしてリーダー役を演じていた。
余談ながら、その社員寮は夜になるとゴキブリがでてきて、寝ている私の顔の上を夜な夜な這っていた。私は神経が図太い方だからそうしたことも笑い飛ばしたが、実際、一緒に暮らしている社員の人も同じ経験をしているのだから、私たちは大いに仲良くなってきた。
私は、まず、3000以上に分解された派生製品を「戦略製品群」と名付け、12の戦略立案単位に分類し、さらに派生形については、「急ぎ対応型」「小分け対応型」「大ロット対応型」の3パターンのみに分類。例外を認めない36基本パターンに絞り込んだ。
もちろん現場は、「そんなに絞り込んだら売れなくなる」とぶーぶー文句を言ったのだが、私はしつこく3000の派生製品を細かく分析し、時に、担当営業マンと一緒にお客様に同行し、一緒に話を聞くと「確かに、ここまで細かく対応しなくても現場でキチンと説明すればお客様は受け入れてくれる」ということが分かってきた。最終的には、例外を含め50パターンぐらいに落ち着いた。
この絞り込み戦略の成果は絶大だった。まず、例外対応がなくなり、コストが激減した。また、在庫も減少してキャッシュフローが良化したのである。