「個人情報保護」「プライバシー侵害」という言葉が一般化し、会社も個人も(ある意味異常なくらいに)神経質になっているこの時代に、個人情報の代表的なものの1つである「メール」は個人が守られて当然と思われるかも知れません。
ではなぜ、両方の裁判とも「見られた社員」が負けたのか?
それは、「見た上司」の行為に適法性が認められたからです。
前者の事例では、その部下があやまって私的なメールを事業部長に送ってしまったことがきっかけでした(それ以降にその事業部長はメールをみるようになりました)。
実はこの部下は私的なメールが非常に多かったのです。
社員には仕事の時間中には仕事に専念するべきという「職務専念義務」があります。
会社は就業規則や社内規定でメールの私的利用を制限する規定を設けることができます。
この事業部長がメールをみていた目的はこの私的利用を監視するためであり、その目的が裁判で「適法」と認められたのです。
また、後者の事例では、社内で流された匿名の誹謗中傷が記載されたメールについて、その部下が発信者ではないかと疑いがかけられていました。
そこでその上司が調査の目的でメールをみていたのです。
「プライバシーの侵害」というと、社員はなんでも守られると勘違いし、会社は必要以上に慎重になり勝ちです。
ただ、それは無条件に保証されるものではありません。
「必要があれば、会社や上司はメールを確認することができる」ということを社内にアナウンスしていくことが重要です。
そうでないと、私的利用が増えて業務に差し支えたり外部への情報漏えいにつながったりと問題になる可能性があります。
ただし、会社や上司も無条件に社員のメールをみることができるわけではありません。
それには一定のルールがあります。例えば、以下の場合は問題になることがあります。
■社員のメールの私的利用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合
■責任がある立場の者でも必要性が全くない場合
■社内の管理部署などにも秘密にしたまま個人的に監視した場合
具体的にお話すると、ある部署の部長が自分の部署とは、全く関係ない部署の社員のメールを監視するのは問題になるでしょう(それが管理部の部長で全体を管理する立場であれば別ですが)。
また、何の疑いもなく真面目に働いている社員のメールを勝手に監視したりするとそれも問題になる可能性があります。
このようなルールを守ってこそ、その監視が有効になるのです。
なお、もし仮に私的な利用があったとしても、家族や知人に「今から帰ります」などの簡単なメールで、なおかつその頻度がそれほど多くないのであれば、懲戒処分などにするのは難しいでしょう。
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企業での人事担当10年、現在は社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツをわかりやすくお伝えいたします。
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