アメリカとの差。日本のアニメ制作現場で圧倒的に欠けているもの

 

日本とアメリカの現場の決定的な違い

曲がりなりにも計10年以上、日本とアメリカの両方の映像開発現場で働いてきて、僕が決定的に差があると感じているのはこの三点目なんですよね。会話。カンバセーション。協議。打ち合わせ。言い方は様々ですが、日本の映像制作現場では「言葉が圧倒的に足りていないんです。

踏み込んで言うなら、打ち合わせをするタイミングや効率的な手法、そして適切な相手を心得ていないことがよくあります。ダメな会社ほど無駄な会議を開くものですが、それとも共通する問題です。言葉を交わしてはいても、協議を行う際の諸条件が的外れなんですよね。加えて、もっとも会話を必要とするようなステージで、協議を重ねる重要性が軽んじられていることがあります。

例えば、日本のテレビアニメの企画決定から作画作業に至るまでの打ち合わせの数々は、メンバー構成や形式の面でおかしな組み方をされているんですよね。担当役職ごとに参加すべき打ち合わせがかなり区分けされているので、なかなか重要な部門同士が一堂に会することがありません。「みんなで会えばいい」と言いたいわけでは決してありません。人数が増えれば増えるほど会議はつまらなくなるものですし。けれど、いくつもの部門が一つのものに関わっているという実感を持てるような場って、案外少ないんです。

結果、ステージが進むごとに、伝言ゲームのようにして失われてしまう要素がたくさんあります。僕はそれが心底嫌いでした。

プレゼンテーションの重要性についても、同じことが言えます。日本人は人前で話すことが概して得意ではないでしょう。特に職人的な性質の強い職業ともなると、文句を言わず黙々と仕事をこなすのが美徳だと捉えている人がほとんどです。そこで、そうやって人前で話す作業は営業職やビジネス色の強い立場の人間に任せてしまい、「本当のアーティストは仕事の中身で勝負すればいい」といった空気が常に存在しています。

それが、大きな間違いなんですよね。そんなもの、逆に決まってるでしょう。

アーティストこそプレゼンテーション能力が本来必要とされる職業です。誰も考えつかないようなアイデアや物語を作りたいのなら、それを適切な規模で作る予算と所要時間は当人が一番良く知っていなければなりません。その発想がいかに面白いのかを、万民にわかるように噛み砕いて解説することができてこそ、映像産業でモノを作るアーティストたり得ます。ここで取り上げている「映像制作」はビジネスなんですから、「推して知るべし」で物事がまかり通ると思っているなら、それは誰であろうと大間違いだと断言できます。

口が達者であればいい、と言っているわけではありません。要は常に「伝え方」と「伝え時をよく考えなければならない、ということです。そして、より面白がって聞いてもらうために、できる限りの工夫をしなければならない、ということでもあります。良い「映画」や「ドラマ」ほど、忍び込ませたテーマを上手に伝えているものでしょう。それと同じことです。作り上げた作品が「良質なプレゼンテーション」の結晶であるなら、作る過程だって良質なプレゼンテーションの積み重ねであって然るべきでしょう?

先の講座で登壇したアニメーターのことを引き合いに出すと、アメリカの優れたアーティストたちは、極めてオープンなんです。彼に限らず現場の誰と話しても明るく闊達で、話好きです。そして打ち合わせの現場でも、討論を重ねることに非常に慣れています。成功する作品ほど、そういった場がよく設けられ、アーティストたちがその他大勢のスタッフや関係部門の担当者に対してプレゼンテーションする会が頻繁に開かれています。というより、何かしらの成果を発表する際は必ずプレゼンテーションの形式が取られます。

上がったものを見て「承認・却下・修正点」だけを通知するのではなく、わかりきったことでも必ず言葉にして確認し合う。言葉にしてわからなければ作ったものが理解されることはない、というのが大前提なのです。そういった共同作業への根底の認識が、日本の映像業界の各所では足りていません。

個々のアーティストが持つ会話能力と、より密度の濃い会話の場を作り出す積極的な行動力こそ、現代の映像制作現場には必要とされています。表現者たればこそ、様々な方法を用いた自己表現への努力が、よりよい作品を生み出す土台になるのだ、と僕は感じています。

(文責:小原 康平)

image by: Shutter-stock

 

Ministry of Film – ゼロからのスタジオシステム –
映画業界での国際的なキャリア構築を志す若手日本人著者が、米ロサンゼルスの権威ある映画大学院(AFI、USC)で学んだカリキュラムを下地に、実務レベルでの「ハリウッド」と、世界の映画事情を解説。メンバーのリアルタイムな活動記、映画レビュー、そして毎回異なるテーマでのコラムを中心に展開する。
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