Made in Japanブームは終わる。大変革を余儀なくされたアパレル業界

 

【産業政策の論点はアジアのサプライチェーン標準化】

最後に、こうした企業改革の論点に加え、産業政策として日本政府がアパレル業界に果たす役割について論じたい。昨今、円安誘導により原価が高騰し企業収益が悪化するなど、政策とビジネスは切り離せなくなっている。今後、日本のアパレル業界復活に産業政策は極めて大事になってくる。

これまでの産業政策の課題は、

  1. 日本国内の範囲でしか考えられていない
  2. ハード(商品)からかソフト(IT、金融、ビジネスモデルなど)という産業構造転換の論点がない
  3. 川上(アジア)と川下(日本国内)に対する政策が分断されている

ことがあげられる。

これは、「輸出」で「外貨」を稼ぎ、日本が潤うというロジックが根底にあるからだ。その為、日本から輸出できるものがないかと見回し、AKBやらピカチューに目をつけ「アニメを輸出しよう」となる。しかし、こうした発想は単に「そのとき旬なもの」を追いかけているに過ぎず戦略的ではない。例えば、日本の産地、鯖江のメガネとか、岡山のデニムとか、そういう産地の名産品をアジアの展示会にかけ、世界の注目を得ようという発想を聞く。しかし、本当に、そのような支援を現場が求めているのか、あるいは、そのような支援が産業全体に影響を与えるか否かの妥当性は十分議論されるべきだろう

そもそも、アパレル業界は「輸出」発想では通用しないほど国際化が進んでいる。例えば、保護産業といわれている皮革、靴業界は、その単品完成度や品質の高さから実際は世界に類を見ないほどの競争力を持っている。一方、革靴には数量割り当てや高い関税がかかり日本への輸入は阻害されている。

これは国内産業保護を目的としているのだが、現実は逆のことが起きている。浅草や長田といった国内の靴の産地では就労者が少なくなり働いている労働者はアジア人が多い。また企業の中にはすでに日本から出てゆき、中国や東アジアに生産拡張、日本の技術を海外移転することで原価を抑え日本に持ち帰る取引を行っている企業が多い。こうした現状を見れば、実際は、数量割り当てや輸入関税はこうした日本企業の自助努力を阻害しているということになる。ファッションビジネスは既に国境は無くなっているのだ。世界はこれから以下のように分化しグローバル化してゆく。

  1. 米国は「リテールテクノロジー 特にデジタル技術」の世界化を推進
  2. 欧州は「ブランド」の世界化を推進
  3. 中国、ASEAN諸国は「生産」の世界化を推進、やがて経済発展とともに消費国へ移行

欧米は繊維製品の生産国から、デジタルテクノロジー、ブランドなどソフト化に成功した。繊維産業は成長過程において、自らを生産国(ハード)から開発国(ソフト)へ転換できなければ、単なる消費国へと陥ってゆく。日本はこの産業転換ができなかったため、未だに3.の発想で物事を考えている。実際、売れているセレクトショップを見れば一目瞭然だ。例えば、ユナイテッドアローズでは、モンクレール、HERNOなどの欧州のブランドを輸入し、Green Labelはアジアでつくっている。彼らが導入しているオムニチャネルやRFIDは米国からきたものだ。日本人はただ消費しているだけである。産業のソフト化、構造転換は産業政策の主要論点の一つである。

日本が産業政策としてアパレル業界に取り組むべき課題は、生産地であるアジアのIT、金融、物流といった周辺産業のスタンダードを作り上げることだ。統一規格というとJANコードを思い出すが、このJANコードは、日本に製品が輸入された後に使われる「商品コード」である。アジアの生産、製造オペレーションとは繋がらない。しかし、リアルビジネスは製販統合が進んでいる。店頭のPOS情報は人海戦術によってアジアの生産現場と繋がっており、店頭の売れ行きに応じて生産調整をする、あるいは、中国で在庫をし、各国の販売状況に従って仕向先と出荷量を変えてゆくなど、アジアでの生産オペレーションと日本での販売オペレーションは限りなく同期化している。

生産情報は個別商社がバラバラのやり方で進め標準形がない。アジアの工場から送られてくる輸入書類のフォーマットはバラバラだし、生地や付属といった部品管理も手作業で行われている。だから、政府主導で例えばJANコードなどを拡張し、生産オペレーションや輸入業務まで包含する統一基準をつくる。また、その統一基準に沿ったアジアの工場に対しては、優遇輸入税制を適応するなど、タックス・インセンティブを工夫すれば、アジア全域を巻き込んだサプライチェーンの標準化が可能なはずだ。

もし、アジアを内包した日本主導の標準化ができれば、そこに新しい産業、例えば、金融、IT、ロジスティックスという周辺産業が進出し世界化することも可能だ。川上と川下を分離せず、アジア全体でサプライチェーンを同期化するプラットフォームをつくることが主要論点の一つである。

以上、大きく変わりゆくアパレル業界の論点を個別の企業改革、日本の産業政策という二つの軸で論じてきた。昔のやり方、考え方がいかに古くなり通用しなくなってきているかおわかりかと思う。

image by:Shutterstock

 

『FRI Magazine』
著者/河合 拓
コンサルティングファーム取締役。講演、セミナーを数多くこなす傍ら、IT企業、製造業、商社、流通・小売など再生案件を手がけた企業は多い。本当の問題解決力を身につけたいと思いませんか。私は、数多くの企業と事業の再生を手がけ多くの成果をあげてきました。私は実際に事業を動かしている実務家です。このメルマガは生々しいプロフェッショナルビジネスの現場から、私自身が解説してゆくノンフィクションストーリーです。
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