町工場の火を消すな。新技術崇拝と職人軽視に明るい未来はない

 

群馬大学医学部では新技術を導入したが医師の技術が未熟で何件もの治療ミスによる死亡事故が明るみに出た。最近の手術は、最新技術を使う場合、患者の内臓を見るのではなく、内蔵の細部まで映し出す映像を見ながらメスを使うと聞いた。たしかに人間の肉眼では見えない部分まで表裏、前後から立体的に映る映像で手術した方が、一見安全確実のように考えがちだ。しかしメスを持つ医者の技術が未熟だったり画面を見る眼力が不足していれば医療事故は簡単に起こってしまうのだ。

新しい技術、機器は魅力的だし人間の力が及ばなかった部分まで解決してくれるように見える。天皇陛下を手術した順天堂大学の天野篤医師は最新機器を使いこなすことで有名だが、その手術例は年間約500件もある熟練、練達の師でもあった。だからこそ天皇陛下の医師団は名ではなく本物の技能のプロである天野医師にあえて白羽の矢を立てたのだと思う。

ここ数年に発生した大企業・大病院などの不祥事は、技術科学機器への信仰に走りすぎた結果なのではないか。大型レンズ磨きの最終点検、仕上げは機器やITに任せるのではなく、最後はベテランの職人さんの長年の勘、腕に頼るケースが多いと聞く。人口知能が流行し、人口知能が幅を効かすようになると無用となる職種はかなり増えるといい、最近はその特集が目につく。

一見、効率がよく人間より優れているように宣伝されているが、やはり人間あっての人口知能の利用だろう。人口知能と世界最強棋士の将棋の大局では人口知能が勝利数を多く上げた。しかし人口知能に蓄積された無数の例題にはない意表を突いた勝負手にはあっけなく人口知能が投了したという。人間の知恵職人の技などを軽んじてはいけない

(電気新聞 2016年5月30日)

image by: Shutterstock

 

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