新元素「ニホニウム」の違和感。新聞各紙も報道に大きな「温度差」

 

氷と炎

【毎日】は1面トップに加えて3面の解説記事「クローズアップ」を充てている。1面記事にはニホニウムを含む周期表の一部分を掲載。周期表全体は3面記事の方に。

uttiiの眼

《毎日》1面の書き方には不思議な冷静さが漂っている。リードにあるような「教科書でお馴染みの元素周期表に初めて日本生まれの元素が掲載される」という筆致には、確かに、学校教科書への仄かな懐かしさと明るいファンタジーが含まれている気がするものの、全体は、《読売だったら血涙を拭いながら力説するような材料を、《毎日》の場合はサラッと書いていて好感が持てる。

例えば、小川正孝博士と「ニッポニウム」については、「1908年に『発見した』と発表した43番元素(後に誤りと判明)に命名した経緯がありIUPACのルールで使えなかった」とだけ記している(IUPACとは「国際純正・応用化学連合」のこと)。

ディテールも丁寧で、「ニホニウム」の「寿命は平均0.002秒しかなく、崩壊を繰り返して別の元素のドブニウム(陽子105個)やメンデレビウム(同101個)に次々と姿を変えていく」と詳述している。この崩壊の過程を示すことは命名権の獲得にとって非常に重要な要素だったので、意味のある記述だと言える。ただし、そのことが書いてあるのは1面ではなく3面の解説記事の方。

3面は、逆に、かなり興奮した調子の記事になっている。見出しに「「日本発」悲願かなう」。リード部分では「欧米陣が独占してきた新元素の発見や合成に風穴を開ける金字塔」だとし、「極めて困難な新元素の合成は国の技術力の集大成」であり、「日、米、露、独を中心に各国が威信を懸け、次の新元素を合成すべく激しい国際競争を展開している」という。

紹介されているエピソードも、「ニホニウム」提案を決めた理研チームの会合では、森田浩介九州大教授が「自分たちの国で作った元素だとアピールできる名前にしたい」と語ったとか、改めて小川正孝博士の「幻」の発見、さらに戦前、理研の仁科博士率いるグループが93番の合成を試みて失敗したことなどが綴られ、今回は「3度目の正直」と位置づけられている、と。

《毎日》3面は日本の「悲願」を強調しているが、厳しい国際競争が今後も続く理由について丁寧に説明しているのが特徴。研究の意義については、「科学を学ぶ日本の中高生に大きな刺激」といった次元に止まらず、「人間は宇宙が何でできているか考えずにはいられない。元素は宇宙誕生時や星の大爆発で盛んに作られてきた。元素を知ることは宇宙を知ること」(桜井博儀東大教授)という最も基本的な意義を押さえている。また新元素の探索は欧米が牽引してきたこと、99番や100番は水爆実験の灰の中から発見されていること、研究に必要な加速器は各国が新しいものを建設したり拡張したりしていることが書かれている。巨大設備を必要とする研究が、しばしば「国の威信を懸けて」行われることは間違いない。

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