新元素「ニホニウム」の違和感。新聞各紙も報道に大きな「温度差」

 

原爆の歴史背負う

【東京】は1面左肩に基本的な記事。3面左側に比較的大きな記事。森田九州大教授のにこやかな笑顔と立派な体躯が紙面のなかにドンと座っている風情。1面と3面の見出しを並べておく。

・新元素名「ニホニウム」
・「新元素合成は原爆の歴史背負う」
・「ニホニウム」提案 森田教授

uttiiの眼

《東京》によれば、森田氏は「(歴史的に)ウランより重い元素を作ろうとして核分裂を発見し、その後、爆弾の開発に駆り立てられた。核の災害によって生命を失い、不自由を被った人と関連がないわけではない」と硬い表情で自らの思いを明かしたという。学会での命名理由説明の中で福島第一原発の事故に言及、信頼を取り戻したいとするチームの望みを紹介していると。

これは、少なくとも、原発の安全性を保証しようというような話でないことだけは確かだ。原発は科学が犯した過ちだ、とまでは言っていないが、原発事故が科学の信頼喪失につながったことから、科学そのものを救い出したいという気持ちのように思える。たとえて言えば、「原発のことは嫌いでも、科学のことは嫌いにならないで下さい!」ということか。

新元素の合成は、歴史的に見て、核開発と表裏一体の研究だということだろう。《毎日》はネプツニウムを合成しようとしていた仁科博士の名前を出し、また、アインスタイニウムとフェルミウムは水爆の灰から発見されたという事実を摘示しながら、「核開発」や「原爆」という言葉に到達しなかった。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

随分前になりますが、ノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進博士が帰国した際に、成田で共同会見に参加したことがありました。確か1987年ですから、29年前のことになりますね。私は敢えて、こんな質問をしてみました。

「『故郷に錦を飾る』という言葉がありますが、今、先生はそのような感慨をお持ちでいらっしゃいますでしょうか?」

利根川さんは「全くありませんと即答されたので、「意外」という受け止め方が多かったからでしょう、その模様が大変大きく報じられたことを思い出します。利根川さんは「帰国」という言葉さえ使わず、終始、「訪日」とか「訪問」と仰っていたような記憶です。理想的な環境のアメリカで研究を続けてこられた先生は、ご自分の受賞が、ナショナリスティックな大騒ぎに結びつくことを大変嫌がっておられたように感じました。

科学に国境はあるのかないのか。

カミオカンデの研究者がノーベル賞を受賞した時には、さほど「国粋」的な話は出なかったように思います。今回は、命名権を初めて日本の研究グループが獲得したこと、そして「ニッポニウム」の因縁と「ニホニウム」の名、こうしたことが、国粋的な感情にフィットしてしまったのかもしれません。それはある程度仕方のないことかもしれませんが、せめて、「毒消し」として、核開発と新元素合成の関係くらいには言及しておいてほしいものです。

image by: Shutterstock

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/6/9号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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