新元素「ニホニウム」の違和感。新聞各紙も報道に大きな「温度差」

 

国威発揚の具

【読売】はやはり1面中央付近に基本的な情報の記事。ビスマスに亜鉛を衝突させ、核融合してニホニウムができている場面の模式図を載せている。35面社会面に「歴史発掘的な大きな関連記事があり、短くQ&Aも付いている。この35面記事から、見出しを何本か拾っておく。

・100年越し「日本」名
・新元素ニホニウム
・幻の「ニッポニウム」
・1910年代、10年間記載
・理研 先駆者への敬意込め
・実験で原子衝突400兆回
・取り消された名称使えず

uttiiの眼

1面記事の文章からして、《朝日》とは取り上げ方が大きく違っている。例えば、「日本由来の元素名が確定すれば、欧米を中心に発展した近代科学史上で初の快挙となり、世界中の化学の教科書に『ニホニウム』の名称が掲載されることになる」という書き方から、記者の「高揚感」を読み取るのは容易い。

35面記事は、今回の発見を、日本の元素化学の歴史における輝かしい到達点として記録したいという意思が感じられる。

上に書き出した見出しをツラツラ見て頂くだけでも感じ取れると思うが、要は、100年前の一時期、「ニッポニウム」という元素名が公認されており、後に抹消されたという悲劇があり、今回の出来事は「日本の国名を冠した元素名が、1世紀の空白を経て、永久に残ることになった」快挙だというのだ。

東北帝国大学の小川正孝博士が留学先で発見し、当時未発見だった43番の元素として帰国後の1908年に論文を発表、周期表に「ニッポニウム」が記載されていたという。ところが、後に、イタリアの科学者が43番はニッポニウムと異なる別の元素であることを明らかにして、テクネチウムと命名。小川さんの発見は間違いとされた。

ところが、東北大学名誉教授の吉原賢二さんによると、小川さんが発見していたのは、その当時未発見だった75番で、その後、レニウムと命名されたものと同じものだったことが判明。「小川博士が新元素を見つけたのは事実」(吉原)という。そして今回、一度取り消された「ニッポニウム」は使えなかったが、同じように「日本」を示す「ニホニウム」が周期表に載るのだ、と。

思うに、《読売》はこうした経過を「ニッポンが雪辱を果たして栄光を手にした」と、まるで「国威発揚に資する出来事のように描き出している。

《読売》のこうした書きぶりの中には、中国の発展を目の当たりにしてすっかり自信を喪失してしまい、その反動で他国や他民族に対する敵意や反感の炎を燃やし、とりわけ嫌韓・反中に熱中する人々と共通するものを感じる。「日本がいかに凄いか」を「立証」しようと躍起になる近時大流行のテレビ番組も同根だ。

小川正孝博士がレニウムを発見していたことは偉業であるに違いない。しかし、同じことが21世紀の日本で起こっていたらどうだっただろうか。小川博士は、75番を43番と間違えて「ニッポニウム」などと名前をつけ、世界に日本の恥をさらしたペテン師野郎だと、連日のようにバッシングを受けていた可能性はないだろうか。メディアによる評価の仕方が軽薄であればあるほど、批判に回った時の激しさと執拗さは度を超したものになりがち。最近のいくつかの例を見るだけで明白だ。

《朝日》のように冷たくなくてもいいが、少しは冷静になった方がよい

その「冷静さ」を回復する手掛かりが、同じ《読売》の35面記事に書き込まれている。研究チームが「ニホニウム」を提案するにあたって説明したことは、「新元素発見の研究に尽力した小川正孝博士への敬意」と並んで、「東京電力福島第一原発事故の被災者の科学への不信を払拭する願い」だったという。《読売》はこの「科学への不信」とは、原子力への不信のことであり、それを払拭するということは、つまり原子力は安全に扱うことができる、引いては、原発は安全に運転できるという意味を読み込もうとしているのかもしれない。だとしたら、はたして《読売》の読み込みは当たっているかどうか。

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