ピケティの奥さまが著したメディアビジネス論が興味深い

 

ではどうするのか。著者は、先ほども書いたように質の高い情報を提供していたマスメディアが弱体化し、ネットではチープな情報があふれてしまうようになっていると指摘しています。情報洪水によって記事の単価は下落し、従来のように高品質な内容のものを有料で提供することが難しくなったというのですね。この市場原理の下では、綿密な調査報道に基づく良質な記事は費用対効果の点から成立しにくい。調査報道や権力監視は、民主主義には必ず必要なものであり、このジレンマをいったいどうするのか?

現時点での情勢だけを見れば、たしかにそうなのですが、いまちょうど起きているメディアのイノベーションについて本書にはまったく言及がありませんでした。ネイティブ広告やデータ分析などを軸とした新たなビジネスモデルが生まれてきており、このビジネスモデルが良質なジャーナリズムを支える基盤となるのかどうかが、今後の最大の注目ポイントとも言えるでしょう。この点をまったく分析していない本書は、そういうメディアイノベーションの実態をまったく知らないのか、それともあえて言及を避けたのか。

ちなみに著者は結論として、クラウドファンディングの仕組みを駆使し、株式会社と財団のハイブリッドとなる新しいメディア会社を提案しています。これもまあひとつの可能性はありということで、その点で興味深い書籍であるということは申し上げておきたいと思います。

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佐々木俊尚の未来地図レポート』より一部抜粋

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
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