長時間残業で自殺。家に「お持ち帰り」した仕事は残業になるか?

 

通常はこのようなケースではほぼ労災とは認められません。自宅での行動が把握しづらいため残業を客観的に証明するのが難しいからです。

ところがです。労働基準監督署は「労災である」と認めました。その理由は次の2点です。

  • 会社と自宅での残業時間を合わせると労災認定基準を上回る
  • さらに上司からの厳しい叱責によりうつ病を発症した

では、どのように自宅の残業時間を証明したのでしょうか。

実はこの自殺した社員の自室には仕事で使うレッスン用の手作りのカードが2,385枚残されていました。それをなんと、監督署の署員が実際にカードを作成して時間をはかり、自宅でも月に80時間以上の残業があったと結論づけたのです。

いかがでしょうか。先ほどのお伝えしたようにこれは非常に「珍しいケース」ではあります。ただ、1回このようなケースが認められると今後も同じように判断される可能性が充分にあります。

ではどうしたら良いか。実務的には下記のような点があると、たとえそれが自宅で行ったことであっても「残業時間」と認められる可能性があります。

  • 担当業務を一定の期日までに処理しないと評価に影響する
  • 自宅に持ち帰らないと処理しきれない仕事量である
  • 自宅へ仕事を持ち帰っていることを会社もしくは上司が認識している

これらが無いように徹底していくことが大切でしょう。実際に別の裁判では、自宅での仕事を次の理由から「残業ではない」と認定しています。

  • 自宅での仕事を明示的に指示していない
  • 社内のパソコンを使用して仕事をするように指示していた
  • 自宅で仕事をしなければこなせないような仕事量ではなかった

仕事量については、「こなせるはず(会社)」「こなせない(社員)」と、お互いが主観的な見方になってしまい、判断が非常に難しいところではあります。ただ、そもそも社員の仕事量を把握もせずに仕事を次々に指示している会社も多くあったりします。まずはそこから改善していく必要があるのではないでしょうか。

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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