「R」と「L」が区別できぬ日本人は欧米人より人間的って本当?

 

多くの人は、記憶力といった知的な能力に関して、他の動物に比べて段違いに優れていると、思い上がっているようだが、必ずしもそうではないのだ。冒頭で述べたシンポジウムで、チンパンジー研究者の松沢哲郎が披露してくれたビデオを見て、私はびっくりしてしまった。チンパンジーに1から9までの数字の順番を覚えさせて、パソコンのパネル上にランダムに配置して、指で順番にタッチして正解だとご褒美(ちょっとした食べ物)がもらえるというゲームをしてもらう。チンパンジーは即座に正しく答えてご褒美をもらい、飽きると立ち去っていく。人間なら子供でもできるゲームで、これだけならチンパンジーも少しは賢いようだ、くらいにしか思わないだろう。

ところが、今度はランダムに配置した数字をほんの一瞬だけ見せて数字があった位置だけを黒く塗りつぶして示し、チンパンジーに順番にタッチしてもらうゲームをする。驚くなかれ、チンパンジーは迷うことなく正しく答えるのである。次に別のパターンでやってもチンパンジーは直ちに正しく答える。これは、見た瞬間に1から9までの数字のあった位置を正しく覚えたことを意味する。

同じゲームを人間にさせると全くできないのだ。松沢さんの話では東大生10人にやってもらったところ誰もできなかったという。人間でもカメラ眼を持つサヴァン症候群の人(ある能力だけ際立ってすぐれている人)がいるが、チンパンジーはこのサヴァンに近い。一般的な人とは異なる脳の機能を持つのだろう。ヒトの脳は平均1350ccとチンパンジーの平均370ccよりはるかに大きいとはいえ、必ずしもすべての脳機能においてチンパンジーより優れていることはないのだ。

特に異なるのは、音の差異を見分ける能力である。私は子供の頃、コロという名のイヌを飼っていたが、私が「コロ」と呼べば、しっぽを振って挨拶してくれるが、たまたま遊びに来た私の友達が「コロ」と呼んでも、見向きもしなかった。優しい声で「コロ」と呼びかけても反応せず、頭に来た友達が大声で「コロ」と怒鳴ると、敵意をむき出しにして、わんわんと吠えた。

イヌは言語を介さないでコミュニケートするので、自分に向かってくる人が友好的かどうかを判断する能力は人間よりずっと上である。人間が言葉だけのおべんちゃらに、いとも簡単に騙されるのとえらい違いである。以前住んでいた近所に、たいそうイヌに好かれるご婦人がいらして、どんなイヌもこのご婦人の前では恍惚として、中には嬉ションをしてしまう(嬉しさのあまりおしっこをしてしまう)イヌもいたくらいなのだ。だから、私の友達が優しい声で「コロ」と呼びかけても、あまり反応しなかったのは、友達のイヌ嫌いを見抜いていたのかもしれないが、もう一つの可能性としては「コロ」と友達が呼びかけた音声が、自分を呼んでいる音声とは思わなかったのかもしれない。

コロが私の呼びかけに反応するのは、私の声の音程や音色を見分けているからであろう。しかし友達が呼びかける「コロ」という音は私の「コロ」とは全く違う音だとコロは感じているはずだ。人間にとってはどんな音でも「コロ」は「コロ」だが、イヌにとっては全く違う音声に聞こえるに違いない。昔、「違いが分かる男の…」というコピーが流行ったが、違いが分かる男は動物的で、違いが分からない方が人間的なのであろう。

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