炭酸泉はキケンなのか?「有馬温泉死亡事故」を温泉のプロが検証

 

もう一つおさらいである。今度は温泉の方の定義についてである。「温泉法」による定義では、温泉1リットル中に遊離炭酸(CO2)が250mg以上あれば、それは「温泉」(二酸化炭素泉ではなく、法律上の温泉)となっている。

一方で、「鉱泉分析法指針」における「療養泉」の定義では、同じく温泉1リットル中に1000mg以上となっており、これをクリアして初めて「二酸化炭素泉」を名乗れることになる。 この濃度は、一般の家庭用浴槽に炭酸系入浴剤(バブとかです)を10個ほど入れたものに相当するとされている。

で、調べてみると、乾燥した空気1リットルの重さは、1気圧摂氏0度の時に1.293グラム、二酸化炭素は約2グラムで空気より重い。そんなわけで、濃度が濃くなると低いところに溜まるということになる。そして、「空気中の二酸化炭素濃度が3~4%を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%を超えると呼吸不全となって数分で意識を失う。 この状態が継続すると麻酔作用による呼吸中枢の抑制のため呼吸が停止し死に至る(二酸化炭素中毒)」(ウィキペディアより)とのことである。

温泉の遊離二酸化炭素を測る方法については、ネットでも読める「鉱泉分析法指針」に書かれているので割愛するが、いずれにしても、文系頭の僕にはチンプンカンプンである(笑)。けれども単純計算で、1リットル中に1000mgなら、一般家庭用浴槽の標準である200リットル前後の大きさの湯船に満たされた二酸化炭素泉の遊離炭酸は200gということになる。で、家庭用の浴室でも湯船の3倍くらいの空間があるだろうから、ざっくり考えてもその空気量は600リットルほどであり、重さにすると720グラム以上ということになる。

一方、2006年の大気中には約0.038%の二酸化炭素が含まれるとのことで、720グラムの空気には0.41gの二酸化炭素が含まれている計算になる。 そこに200gの炭酸ガスが加わったとしても、『公衆浴場における衛生等管理要領』の、

「脱衣室及び浴室は、脱衣又は入浴に支障のない温度に保ち、かつ、換気を十分に行うこと。なお、空気中の炭酸ガス濃度は1500ppm以下、一酸化炭素濃度は10ppm以下であること。」

これに基づく管理が行われている温泉施設であれば安全性に問題ないと考えられる。

ただし、高濃度の炭酸ガスが湧き出ている窪地などに顔を突っ込むのは、おそらく危険であろうということは察しがつく。 有馬の場合は夜間のことで人通りも少なく、風もなくて、炭酸ガスがくぼみの底に溜まりやすかったことも原因とされている。ということは、温泉施設のような大浴場で、なおかつガスが底に留まりにくい入浴客が出入りしている状況であれば、よほどのことでない限り、危険性は少ないと結論づけても良さそうだ。

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