日本ではほとんど知られていないことですが、日本の外務省に当たる外交部は中国の対外関係の組織で最下位に位置しているのです。駐日大使は中国の代表ではあっても、その外交部から派遣されてくるわけで、大使に抗議したところで共産党の指導部にリアルタイムで伝わるとは考えにくいのです。
外交部より上位に位置づけられ、最も力を持っているのは、共産党の中央外事工作領導小組弁公室です。日本の国会に当たる全人代(全国人民代表大会)の外事委員会も、大きな力を持っています。
そして、外交・安全保障に関わる問題で日本側が意思表示をしようとすれば、共産党中央軍事委員会に直結している駐在武官、それもヘッドの国防武官(少将)に伝えるのが、最も早いのです。私の経験でも、その日のうちに反応があったことさえあるほどです。
日本の外務省は、防衛省から出向してきている防衛駐在官を大使よりはるか下僚だと見なし、中国の武官も同じだと思い込んでいるようですが、中国の武官は対外的にも大使と同格に近く、戦前の日本の陸海軍武官が大使と同格であるかのように振る舞っていたのと似ているのです。
防空識別圏の事案において、韓国は中国の国家機構を前提として対応し、武官を3人も呼びつけて抗議しました。
それによって韓国の怒りはリアルタイムで共産党指導部に届いたはずです。中国側は不快に思ったでしょう。しかし、それでも習近平国家主席は韓国の特使と面会しました。これが世界でまかり通っている外交というものなのです。日本が、韓国なみの対中外交に出ることができるのは、いつの日でしょうか。(小川和久)
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