大赤字からの逆転劇。栃木を蘇らせた奇跡の「道の駅」

 

道の駅発着の驚きのツアー~地域の課題も同時に解決

「ろまんちっく村」は1996年、宇都宮市の第三セクターが運営する農林公園として誕生した。しかし熱帯温室ぐらいしか売りがなく、客足は落ちる一方だった。そこで宇都宮市は民間に運営を委託することを決定。それに応じたのが松本だったのだ。松本は「ろまんちっく村を道の駅に改装売上高22億円従業員220人までに成長させた。

集客アップの鍵は、「地域の知られざる魅力の発掘」にあるという。

「地域にはいろいろな資源が眠っていて、コンテンツもいっぱいあるんです。地域の魅力を再発見するところにうまくつないでいくのが自分たちの役割。地域をプロデュースする会社じゃないでしょうか」(松本)

ファーマーズ・フォレストが発掘してきたのは農産物だけではない。並べるそばから売れていくパンもそのひとつ。実はバイヤーがかなり意外な場所で見つけてきたパンだ。

その萬堂本舗があるのは町の外れ。「入って来てもパン屋に見えませんでしょう。だから入ってきてもUターンして帰る方がたくさんいらっしゃいました」と、ご主人の引野純さん。引野さんは立体看板の職人。本業の傍ら趣味でパンを焼き近所の人向けに細々と売っていたところ、大評判になった。その噂を聞きつけたファーマーズ・フォレストが「直売所に置いてみないか」と、口説き落としたのだ。

「こういうところでお得意さんを相手にやっているのと比べると、買っていただけるお客さんの層も増えるし、売り上げも当然上がります。看板屋? 開店休業です」(引野さん)

「ろまんちっく村」の人気の理由、その3は「観光ツアー」にある。

道の駅を出発して着いたのは、大谷石という建築用に使われる石を切り出した跡地。20年以上放置され廃墟となっていたが、地主と交渉してファーマーズ・フォレストが整備。予約が殺到する人気のツアースポットにした。

暗がりの中を進んでいくと、現れたのは雨水がたまってできた巨大な地底湖。ここをゴムボートでクルージングする。地底湖の奥でボートから降り、向かった先には神秘的な光景が広がっていた。特別な気象条件の時にしか見られないという「地底の雲」だ。

地底湖から上がるとランチが用意されていた。栃木の有名シェフが腕によりをかけた、地元食材を使ったフレンチ。メジャーではなくても、そこの良さを再発見し演出を加えることで魅力的なツアーになるのだ。

地域の課題を解決するツアー」(松本)もある。大田原市八溝地区で3年前から始まった「手作り紅茶の体験ツアー」もそのひとつ。八溝は江戸時代から続く日本茶の産地だった。しかし1960年代から人口が減少し、畑も次々と荒地に。そこでファーマーズ・フォレストが観光ツアーと組み合わせることで茶畑の再生に協力したのだ。

日本茶だと静岡など有名産地に埋もれてしまうので、紅茶に切り替えることも提案した。

この事業をプロデュースした石崎美映子は、大手旅行会社JTBからの転職組。地元の人たちと共に、さまざまな課題解決ツアーを作りあげてきた。荒れ果てた竹林を復活させるための「竹林ディナーツアー」(4500円)、後継者不足に悩む林業に興味を持ってもらうための、「林業体験ツアー」(3500円)……こうしたツアーで栃木の魅力を知ってもらえるし、生産者もやりがいを取り戻すという。

いま一番行きたい道の駅。赤字から大逆転の秘密

松本は長野県軽井沢の生まれ。慶應大学を卒業後、施設管理会社で「さいたまスーパーアリーナ」などのビッグプロジェクトを手掛け、その後は温泉旅館の再生事業に手腕を振るった。仕事は充実していたが、一つの悩みを抱えていた。

「箱モノを中心としてリノベーションし、運営を担って引き渡すということの繰り返しなんですけど、もう少し自分の役割としてなにか大きいことができないか、と」(松本)

そんなときに目にした「ろまんちっく村の運営会社の募集。実際に現地を視察した松本は「これだけの敷地を活用して、自分たちでいろいろな仕組みを作れると思ったら、すごくワクワクしました」という。

松本は会社を退職し、2007年、ファーマーズ・フォレストを立ち上げた。

真っ先に取り組んだのは直売所の改革だった。店に並ぶのはありふれた品ばかり。「客を呼ぶためには魅力ある商品が必要だ」と考えた松本は、当時、運営を農協に丸投げしていた直売所を直営にすることを決断した。

「限定された地域の限定された作物しかなく、午後になるとほとんどの物がなくなってしまう。『ろまんちっく村』なりのサービスをきちんと提供できる形にしなければいけないと思いました」(松本)

ところが、社員たちは「何の権限があってこれまでの取引をつぶすんだ」「俺たちがやってきたことを否定する気か」と猛反発。当時の社員の大半は第三セクターから引き継いだ人たち。彼らは変化を嫌ったのだ。

「多勢は第三セクターの方々。ある意味、会社の中に2つの組織があった。とても居場所がないような状況でした」(松本)

当時パートだった川又瑞穂も三セクの悪しき体質にひたっていた一人だったという。

「夏は暑いからお客さんが来ない。冬は寒いから来ない。そのときはそれが当たり前だと思っていました」(川又)

社員の反発に頭を抱える松本の心を奮い立たせたのはある農家の一言だった。

「『社長の下にどれだけの生産者がぶら下がっているか、見えないのか。改革を止めてしまったらどれだけの生産者を裏切ることになるか分かるか』と言われたんです」(松本)

当時、松本の目を覚まさせた御子貝荒江さんは「第三セクターで赤字経営になっていたから、しがらみのない人が新しい感覚で起こすことも大切かなと。ちょっと厳しいことも申し上げたかもしれません」と語っている。

松本は従業員ひとりひとりと対話を続け、三セクから民間への改革を進めた。そして10年、従業員たちには「地域の役に立ちたい」という思いが浸透している。川又は6年前に正社員となり、いまは商品開発を担当。新商品のヒントを探すため、進んで生産者を訪ねるようになった。

そんな川又が今年、ブドウ農家と共同で、新しいワイン「大平巨峰 蔵の街わいん」(2808円)をプロデュースした。全国でも珍しい巨峰だけで作ったロゼワイン。ラベルのデザインもブドウ農家のおかみさんたちと考えた。

生産者さんの作っている思いを一人でも多くのお客様に見ていただいてご購入いただける商品を開発していきたいと思います」(川又)

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