そして、一帯一路の化けの皮が剥がれるにしたがって、中国の行動が次第にエスカレートしているように思えます。
今年3月以降のわずか1カ月半あまりで、10隻以上のベトナム漁船が略奪や攻撃を受けています。ベトナム政府にも我慢の限界はあるでしょう。ベトナム国内での嫌中感情はどんどん高まっており、国内での小競り合いも絶えません。中国の南侵がこれ以上エスカレートして、ベトナムの被害が拡大していけば、政府は何も言わなくても、国民は黙っていないでしょう。2014年にベトナムで起こった大規模な反中デモが再び起こる可能性も決して低くありません。
余談ですが、南洋(南シナ海)をめぐるベトナムと中国の対立は根が深いものがあります。ベトナムの主張によれば、長江以南の「江南」、百越の地は中国に奪われた祖先の地だそうです。周恩来はかつて、ベトナム統一後に海南島をベトナムに返還すると口約束しましたが、返還しないかわりにトウ小平が対ベトナム懲罰戦争を起こしました。
これに怒ったベトナムは、失地回復戦を起こして北京まで攻め込むぞと中国に警告しました。中国人の祖先である漢人は、漢帝国の滅亡後、ホームランドである中原を追われ、「資治通鑑」の「梁記」によると、その後に死に絶えたとされていますが、越まで逃れた漢人が広東で生き残っていたのかもしれません。
それはともかく、4月11~12日にかけて、習近平は、強い中国を誇示するために中央軍事委員会の軍事首脳を総動員して南海(南シナ海)で自ら「史上最大」と称する軍事演習を行いました。もちろん、改造空母「遼寧」も登場しました。
● 習主席、南シナ海の大規模軍事演習を視察 中国の軍事力誇示
ところが、本来なら、総指揮官の習近平は遼寧の艦上でその勇士をメディアにアピールする予定でしたが、巡洋艦「長沙号」で軍事演習を視察しただけでした。一説によれば、米軍の動向が掴めず身を守るために隠れていたということです。
結局、米軍は太平洋艦隊ではなく、大西洋艦隊の空母「ルーズベルト」をフィリピンのマニラに派遣しましたが、習近平は一網打尽にされるのを恐れて、米軍を挑発するために行おうとしていた軍事演習の一部を中止せざるをえなかったとも言われています。そのため13日まで行われるはずの軍事演習を12日で切り上げたという見方も出ています。
その後、中国軍は18日から台湾海峡で実弾演習を行い、さらに20日には冒頭のように、漁船を装った中国船がベトナム船を撃沈したわけです。
アメリカに貿易戦争を仕掛けられ、その一方で一帯一路の悪評が広まるにつれて軍事行動をエスカレートさせていく中国の姿は、習近平の焦りが表れているのです。