建設が始まって以来、死亡事故が起きていないサグラダ・ファミリア。捻れた足場を登った60mの高さでおこなわれている作業を考えると奇跡としか言いようがありません。無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、外尾悦郎氏(サグラダ・ファミリア芸術工房監督)が梶田隆章氏(東京大学宇宙線研究所所長)と対談し、この奇跡が続く環境を紹介しています。
サグラダ・ファミリアの奇跡 梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長) × 外尾悦郎(サグラダ・ファミリア芸術工房監督)
外尾 「大学卒業後は非常勤講師として複数の定時制の中学と高校を掛け持ちし、やんちゃな子供たちと共に一年間、楽しい教師生活を送っていたんですけど、やっぱり何か足りない」
梶田 「石ですか」
外尾 「そう。どうしても石が頭をよぎる。なおさら石に恋焦がれるようになって、『ああ、長いこと石触ってないな』と思うと、魂を吸い込まれるように、街中で見つけた石を撫でてるんですよ。
自分でもこれは危ないぞと思って(笑)、貯金をつぎ込み、3か月間の予定で当てもなくヨーロッパに飛んだんです。どこかで石を彫ってやろうと念じて。
まずパリに行き、次にスペインへ向かいました。
で、サグラダ・ファミリアという建物があると知ってたまたま行ってみたら、もう一瞬にして虜になってしまったんです。リュックを背負って「仕事をさせてください」って言っても、断られるのはだいたい想像つきますよね。
そこで私は、知り合った日本人の駐在員を介してコンタクトを取ることにしました。
それでも最初は『いま忙しい』『明日また来てくれ』と、何度も門前払いです。1か月経つ頃、ようやく主任建築家と会うことができ、試験をしてもらって晴れて合格しました。1978年、25歳の時です。それ以来、ずっと試験が続いています」
梶田 「えっ、ずっと?」
外尾 「そうなんですよ。私はいま、芸術工房監督という肩書をもらってますけど、5年前に初めて正式採用された。つまり、35年間は試験期間です。1回でも仕事を失敗すれば、次の仕事は来ない。それが運よくいままでなかったというわけです」
梶田 「1回1回の仕事が真剣勝負」