止まったら死ぬぞ!難病と闘い東証1部へ導いた外食界のカリスマ

(C)映画「熱狂宣言」公式サイト
 

「応援企業1000社集める」監督が発案した仰天目標

宣伝手法のユニークさは「熱狂カフェ」だけではない。奥山監督の発案で、映画の応援企業を1,000社集めるプロジェクトが立ち上がり、なんと半年間で目標達成。11月4日現在1,118社に上っている。

内訳は、外食関係、医療関係、高知県の企業など様々だ。

「応援企業が集まり過ぎてしまったくらいです。映画館も反響を知ってか、最初は1日に1回上映すると言っていたが、こないだ聞いたら6回上映に変わっていた。1日1回の予定が、一挙に6回。なかなかないこと」と奥山監督自身、期待以上の成果に驚いている。

奥山氏が今回、監督を務めるため、代ってプロデューサーに就任した江角早由里氏は、「最初、監督からこの企画を聞いた時は狂気の沙汰かと思いました(笑)。応援していただけそうな各社にお声掛けをし、協力していただける内容を一社一社ヒアリングして、ポスターの掲示協力や、社内外へのチラシなど宣伝物の配布、オリジナルグッズの作成など会社ごとに決めて行きました。気の遠くなるような地道な作業でした」と振り返る。

左から、近藤太香巳氏(出演者)、松村氏(主演)、江角早由里氏(プロデューサー)、奥山氏(監督)。写真提供: DDホールディングス

左から、近藤太香巳氏(出演者)、松村氏(主演)、江角早由里氏(プロデューサー)、奥山氏(監督)。写真提供: DDホールディングス

実は、江角氏はDDホールディングスの社員で、社長の広報担当者である。

さすがの松村氏も、応援企業1,000社を集めると聞いて、開いた口が塞がらず絶句したそうだ。なぜなら、奥山氏がプロデュースした、あの1987年邦画配給収入1位の『ハチ公物語』ですら、応援企業が20社ほどだったからである。

それでも奥山監督は「松村さんなら、みんな応援したがる。周りの社長たちも、社員たちも松村さんを懸命に支えようとしているじゃないですか。そこが素晴らしい。平成の怪物みたいな人だから集まる」と頑として譲らなかった。映画製作における奥山監督の熱狂ぶりがうかがえるエピソードだ。

隠し撮りに方針転換、実験的な手法で実像に迫る

奥山監督は、むしろ松村氏のパーキンソン病であること以外の面に本当の松村氏の魅力があると考え、撮り始めたが、撮ったものを点検してみると何も面白くなかった

松村氏は「監督の前では全てをさらけ出すつもりでしたから、何を撮影しても構わないという“松村厚久スタイル”で臨みました」と腹を括っていたが、いざカメラを向けるとDDホールディングス代表取締役社長の顔になってしまう。

素人さんですからね。やはり演技してしまいます。そこで、社員の方々にカメラを持ってもらって隠し撮りをする方針に変えました。僕の撮ったものはほとんど使い物にならなくて、江角さんの映像を多用しています。(奥山監督)

江角氏によると、社内のカメラマンのアドバイスで、一眼レフのデジタルカメラを機材として使ったとのこと。

(C)映画「熱狂宣言」公式サイト

映画『熱狂宣言』のワンシーン。(C)映画「熱狂宣言」公式サイト

車内、株主総会、オフィス、結婚式(再婚)など重要なシーンは江角氏によって撮影されている。ドキュメンタリーというと、監督がこだわりにこだわって自ら撮るイメージがあるが、監督不在、そこらの家電量販で売っているカメラによって撮影が進む、実験的な手法で松村氏の実像に迫っている。

アングルやピントなどいろいろ甘いと思いますが、素人なりに日常のさりげないありのままの風景を、そのまま撮影できたと思っています。ドキュメンタリーですし、機材のクオリティや映像表現の高さなどではなく“人”や“心” が伝わる場面やシーンをいかに切り取れるのかが勝負なのだと思います。(江角氏)

奥山監督はナレーションを入れず字幕もほとんどない、説明を排除したスタイルで編集した。音声が聞き取れないシーンもあり、何を撮っているのかわかりにくいという声もあるが、その代り自身で出演して、なぜこの映画を撮ったのかは説明している。ドキュメンタリー映画に、監督自ら出演するというのもユニークだが、自らを「熱狂」の渦に投企する強い意図を示している。

彼って、型にはまらないところに魅力を感じるんです。人に対してふと見せる細かい気遣いとか、やりたいことを何でもしようとする子供のような前につんのめる感じ、ちょっとテレ笑いした時の女の子のようなかわいらしさとか、これが魅力というには余りにも瑣末なものが集合体となって松村厚久ができています。(奥山監督)

主題歌の「LET YOUR LIGHT SHINE ON ME」は黒人霊歌で、“和製スティービー・ワンダー”の異名を持つ、盲目のアーティスト木下航志氏が担当。奥山監督は「明るいジャズ風に歌ってほしい」と注文を出し、ポジティブかつおしゃれな歌に仕上がった。

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