日本のメリットを活かしながらスキルを磨く
圧倒的スキルを身に付けるといってもいきなり一足飛びに業界No.1の営業力が発揮できるわけではありません。圧倒的スキルを身に付けるにあたっては以下のような二段構えの意識を持つことが必要です。
1. いかに早く平均点に到達するか
2. 自分が伸ばすべきスキルを発掘する
わたしが海外のエグゼクティブたちを見ていて実感したのが圧倒的スキルをみずから意識して発揮している人が多いということでした。日本では、さきほども述べたように会社のシステムとして、全体を引き上げる力には優れているものの、いわゆる「出る杭」を叩くような風土から周りと横並びの行動を求められることが多くユニークな発想や、リスクを取る行動をしづらい状況にあります。つまり、圧倒的スキルを育てにくく個人の能力が埋もれやすい環境にあるのです。
ですが、うまくその仕組みを利用すれば労少なくして平均点に達しやすい環境だともいえます。そこで、まずは現在与えられている仕事を効率よく回しすみやかに平均点に到達すること。そしてその上で自分が一番になれるようなスキルを見つけ、磨き上げることがグローバルレベルの圧倒的スキルを育てる近道となります。
圧倒的スキルを育てるために
あえて「圧倒的スキル」と言っているのは、「そこそこのスキル」ではグローバルレベルでは通用しないからです。
またスポーツの話になりますが海外のスポーツチームでは平均的になんでもできるというだけでは誰もが名前と顔を思い浮かべられるようなプレーヤーにはならないですよね。企業やビジネスパーソンにおいてもそれは同じです。なんらかのスキルを圧倒的といえるレベルに高めるためには伸ばすものを取捨選択する必要があります。
私が実際に見てきた世界のビジネスパーソンたちも同じです。意思決定力やいろんな人の意見を引き出すファシリテーションスキル。あるいは「マーケティングならこの人が一番」などすごいと思える人々は必ず何らかの圧倒的スキルをもって存在感を発揮していました。個人がこうした圧倒的スキルを持ちかつ会社がもたらす平均点自体も圧倒的な企業。それがAmazonのような世界的企業になりうるということです。
自分の伸ばすべきスキルを特定
まず、自分の置かれた環境においてあなたがすでに「一番」であるもの、あるいは「一番になりうるもの」を特定することから始めましょう。いきなり世界に通用するアイディアを生み出すとか業界一の営業成績を達成するといった大きな「一番」をめざす必要はありません。わざわざ人に言うのもはばかられるくらいの小さな「一番」でいいのです。
例えば帳簿の入力のミスが少ない。
誰よりも財務会計の資格を持っている。
誰よりも初回のアポを確実に取ってこられる。
顧客のアフターフォローの連絡を誰よりもこまめに行っている。
こんなふうに、数値化すらできないものでもいいのです。まずは自分の所属するグループ、あるいは会社、業界で一番になれるものを見つけてください。そして、そこに徹底的に時間を注ぎ、スキルを磨き上げます。
ひとつひとつのスキル自体は直接大きな成功や評価に結びつくものではないかもしれません。ですが、これを続けることで小さい一番が広がって大きな一番になっていくのです。
そのスキルを特定するにあたっては人からの評価を軸にすることをおすすめします。ここで活躍するのがいつものノートです。日々の成功体験を記録するときに人から褒められたことが書かれていると思います。蓄積された成功体験の中から共通する要素を見つけてみてください。
例えばある週は「顧客に気に入ってもらえた」
次の月も「上司から『一緒に商談に行くと会話が和む』と言われた」
最近もまた「顧客から『こんなにスムーズに取引できたのは初めて』とお礼のメールが届いた」などとノートに書いてあったとします。
こうした評価から「誰よりもお客さんの立場に立ってなごやかな場づくりができる」という、あなたのスキルが浮かび上がってきます。人からの評価は客観的な事実に基づいていることがほとんどです。一度や二度ではなく頻繁に人から言われることの中にはあなたの「圧倒的スキル」の芽が潜んでいます。成長日記をすでにつけている方はノートを振り返って。もしノートをつけていない方は過去の記憶を振り返りながら箇条書きにしてみてください。
ポイントは、2番、3番ではダメということ。集団の中で一番といえるレベルでないと圧倒的スキルとはいえません。わかりやすくいうと「◎◎なら◎◎さん」と人から共通で認識されるレベル。最低1つは思い当たることがあるはずです。逆に、10個以上あるとしたら2、3の要素をひとつにまとめてシンプルなものにしてみてください。数が多すぎるとそこに注ぎ込める時間が相対的に減ってしまうからです。
そしてその要素を職人レベルに磨き上げます。具体的には「3年以上」をそのスキル向上に集中して費やしてください。人が職人レベルにスキルアップするのに10,000時間が必要 と言われます。それくらい磨き込む のです。
その業務に割く時間を増やしたり関連する本を読んだりそのスキルに関わる人物に会ったり。誰よりも時間を投入して磨きこむことで小さな「一番」がより大きなスケールの「一番」に育っていきます。
例えば営業の世界ならさきほどの「誰よりもお客さんの立場に立ってなごやかな場づくりができる」というスキルが「初回アポから次の商談に進む」スキルに成長し、そこから発展して「成約件数No.1」につながるといった具合です。
初めは幼稚で子供っぽいスキルに思えるものもあるかもしれません。数値で表せず人に言うほどではない、という抽象的なスキルもあるでしょう。でも、そのスキルを磨いていくことが「日本」という看板にも「◎◎社」という看板にも頼らない、あなたという個人のグローバルで戦える武器を身に付けることにつながるのです。
どんなスーパープレイヤーもあらゆる項目において圧倒的スキルを持っているわけではありません。グローバルの世界では、そんな平均点、あるいは平均以下のスキルには関心がなく、むしろ一つでも目立つスキルがあれば個性になり、そして周囲から評価や羨望の眼差しを得ます。全項目でそこそこのレベルをめざすのではなく小さな、でも「一番」といえるスキルを1つでいいから見つけることが必要です。
ちなみに私の場合、それにあたるのが誰よりもいろんな人の意見を汲み取るファシリテーションスキルだと考えています。よく、「金田さんとは仕事がしやすい」と言っていただけることが多いことから自分の圧倒的スキルの芽がそこにあることに気づきました。みんなの意見をまとめるだけでなく一つの目標に向かって導くことにわたし自身、とてもやりがいと適性を感じています。
このスキルに気づき、磨き上げていったことで今では某食品メーカーの課長研修の講師を毎年務め、プログラム評価で常にトップ5に入るまでになりました。その会社の研修は某研修専門の企業が複数社、プログラムを提供しているのですがわたしはその中で唯一個人としてお招きいただいています。今の職場においてはまだ入社から半年程度ということもあり製品知識はもちろん下の下ですし営業スキルは海外の仲間たちに及ばない部分もあるかもしれません。ですが、ファシリテーションに関しては入社時点から存在感を示せていると感じていますし会社の内外から評価されている手応えを感じています。さらにこのファシリテーションスキルが仲間を導くことにつながり「リスクを取ってチャレンジするべきだ」という意思決定力も育んでいます。結果、2018年は早々に昨対比200%を超える結果を出すことができました。
このように、自分の「圧倒的スキル」を武器にすることができれば結果が出やすくなるという効果も付与されます。その積み重ねで一つのスキルがどんどん大きな輪になっていくイメージ。抽象的な個人レベルのスキルが誰の目にも明らかな数字で表せるような一目瞭然の結果となって表れた状態です。このステップの先に「顧客満足度95%」「世界No.1シェア」といったような誰の目にもわかる圧倒的な存在感を示せる段階が待っています。いろいろなスキルをつまみ食いしていてはなかなかそこまでのレベルに磨き上げることはできません。一点突破することによって圧倒的な違いが出てきます。
平均点主義で横に技術を広げるのではなくスキルを特定して時間を注ぎ込む「職人」になってほしいんです。日本のメリットである誰もが平均点に到達できるプロセスの恩恵を受けながら自分のスキルは自分で見つけ一本の柱を立てる。現時点で、完成されたスキルになっている必要はありません。「ここは人より明らかに得意」と言えるなにかを見つけることが圧倒的スキルという「攻」の武器になるのです。
わたしも、SAPに初年度入社したときすぐには一番を見つけられませんでした。帰国子女やITに詳しい同期がたくさんいる中でどちらも持っていないわたしは完全に劣等生。それでも、毎朝5時に起きて日経新聞やIT雑誌を誰よりも読みこんでいるという自負はありました。それが私の当時の「一番」でした。
そこにスキルを特定して毎朝ノートにまとめる時間を作り自社に関連する情報を抜き出してファイリングしました。そうすることで「自社の情報と業界に関する知識」では誰にも負けない「一番」になれたのです。
これは直接すぐに売上につながるわけではありません。でも、こうして自分だけの「一番」を磨き続けたことが今の仕事や立場につながっています。子供のような気持ちで自分の「一番」を見つけること。それがグローバルで通用するレベルのスキルを磨くことにつながるのです。
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