日本の大企業がちっともイノベーションを起こせない決定的な理由

shutterstock_257553766
 

一昔前には思いもよらなかった新しい技術や製品が日々の生活に次々ともたらされる今、大企業にも変革が求められる時代となっています。そんな中にあって、「どうやったらイノベーションを起こせるか」という日本企業からの相談が増えてきているというのは、世界的エンジニアでアメリカ在住の中島聡さん。中島さんは今回、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、相談者に対して面と向かっては言わない「厳しい現実」に即した回答を記しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年7月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

シリコン・バレーの空気

ここ数年、日本の大企業の人から「どうやったらうちの会社でもイノベーションを起こせるか」という相談を受けることが増えています。

質問が「なぜ日本の大企業はイノベーションを起こせないのか」であれば、終身雇用制、サラリーマン経営者、合議制、多すぎるミーティング、天下り、出る杭を打つ文化、膨大な時間をかけたエビデンス作り、など箇条書きにして明確な答えを示すことも可能ですが、「どうやったらイノベーションを起こせるか」の答えは簡単ではありません。

突き詰めて考えれば、イノベーションを起こすのは「こんな世界を実現したい」「こんなライフスタイルを人々に提供したい」という誰かの熱い思い」なのです。

しかし、イノベーションのアイデアは、先進的であればあるほど、大半の人にとっては「突飛で理解できないもの」であり、合議制でものを決めようとすると、「そんなもの作れるはずがない」「そんなもの作っても、誰も喜ばない」「売上に結びつくとは思えない」と反対されて潰されてしまいます

多くの従業員を抱え、既存のビジネスと数多くの顧客、株主を抱え、かつ、鶴の一声で物事を決めることが出来たカリスマ創業者が去り、会社のオーナーでもない「サラリーマン経営者が経営する大企業において、そんなイノベーションをどうやって起こすのか、というのは、本当にとても難しい問題なのです。

日本の会社にありがちな「社長直轄の新規事業開発部」は、発想としては面白いのですが、そこに配属される人たちが典型的なサラリーマンばかりなので、なかなかうまく行きません。私はしばしば、そんな新規事業開発部に配属された人から、「何かアイデアをいただけませんか?」と相談されますが、私から見れば、そもそも「こんなものを作りたい!」という熱い思いを持っていない人を新規事業開発部に配属した時点で失敗が決まっています

もう一つのダメな例が「形だけのシリコンバレー・オフィス」です。「イノベーションを起こすにはシリコンバレーの人材との交流が必要」という気持ちでオフィスを開設するのでしょうが、日本の典型的なサラリーマンを、シリコンバレー・オフィスに駐在させたところで、本当の意味での「シリコンバレーの空気に触れることは出来ません

シリコンバレーでは、「Googleで3年、Facebookで2年働いたエンジニアが、Google時代に上司だった人が作ったベンチャー企業からリクルートされる」、「Ciscoで5年働いていたエンジニアが、自分が作りたいものを作らせてもらえないので、同僚と一緒に会社を飛び出して会社を作る」、「作った会社を売却したエンジニアが次に何を作ろうとしているのか知るためにVCの重鎮がお茶に誘う」のようなことが毎日のように起こっており、そこに流れる人材のエネルギーこそがシリコンバレーをシリコンバレーたるものにしているのです。

これは、AmazonとMicrosoftがあるシアトルでも同じですが、ベンチャー・ビジネスに少しでも関わりがある人同士が出会う時には、必ずと言って良いほど、「この人は一緒に働く価値がある人だろうか」「この人が働く企業は今後、爆発的に伸びる可能性があるかどうか」「この人を通して、自分のキャリアアップに結びつく人材ネットワークを拡大することが出来るかどうか」などの品定めをお互いにしているのです。

そして、「この人と付き合う価値がある」とお互いに思えば関係は何年、何十年に渡って続くし、そうでなければ名前すら覚えてもらえないのが、この業界なのです。

先日も、シリコンバレーで上場したばかりのベンチャーで働く人とゴルフをしたのですが、ゴルフをしながら二人で話したのは、どこにビジネスチャンスがあるとか、次は一緒に働くとしたら何をするか、ばかりでした。側から見たら、「ゴルフを楽しんでいない」ように思えるかも知れませんが、これが私たちのゴルフの楽しみ方なのです。

print
いま読まれてます

  • 日本の大企業がちっともイノベーションを起こせない決定的な理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け