日本の大企業がちっともイノベーションを起こせない決定的な理由

 

ちなみに、こんな文化がある背景には、この業界には「良いタイミングでベンチャー企業にいた」ために、数millionから数十million(日本円にすれば、数億円から数十億円のお金をストック・オプションで得た人が何万人もいるという事実があります。

必ずしもお金が一番の目的ではありませんが、「自分と同じような優秀な人たちと、楽しい仕事をし、世の中に新しい価値を提供し、若いうちからmillionaire(億万長者)になる」というハングリー精神に溢れた人たちが世界中から集まっているのが、シリコンバレーなのです。

そんな空気に触れるには、自らがそんなハングリー精神を持った人である必要があるのです。彼らの価値観を心の底から理解していない限りは、全く会話についていけないし、見下されてしまうのです(シリコンバレーのベンチャー企業が、日本企業の「表敬訪問」を嫌う理由はここにあります。彼らにとって、未だに終身雇用時代の人事制度が根強く残っている日本の大企業は、理解もしたくない遠い存在なのです。)。

日本企業からシリコンバレーに来た「日本企業で正社員の地位を保証された人」がその空気に触れることはとても難しいし、たとえ触れるチャンスがあったとしても、全く理解できずに見過ごしてしまうのです。

そんな日本企業が、シリコンバレーで優秀なエンジニアを雇うことも当然不可能です。そもそも日本の大企業のほとんどはストックオプションのようなシステムを持っていないし、たとえ持っていたしても、すでに上場しているので一攫千金は難しい(つまり、エンジニアたちにとっては魅力に乏しい)のです。

結果として、日本企業がシリコンバレーで雇えるのは、他では雇ってもらえないようなエンジニアか次の良い仕事が見つかるまでの一時的な場所を探している腰掛けエンジニアだけなのです。この辺りを全く理解せずにエンジニアを雇うから「シリコンバレーのエンジニアは給料ばかり高くてパフォーマンスが出ない。その上、すぐに辞めてしまう」という結果になるのです。

つまり、シリコンバレーのようなイノベーションを起こすには、まずは最初に、転職も起業もしたことがない、スマホアプリも使いこなせない「サラリーマン経営者には辞めていただきビジョンと企業家精神を持った人に大量の株を与え自らが会社の持ち主となって当事者意識を持って経営してもらうところから始めるべきです。当然ですが、(役員に提供される)お抱え運転手や(子会社・関連会社への)天下りなどの悪習は直ちに辞めるべきだし年功序列・終身雇用も廃止すべきです。

まずはトップから企業カルチャーを根本的に変えない限り、ハングリー精神に溢れた優秀な人は雇えないし、結果としてイノベーションは起こせないのです。

相談に来た大企業の経営陣にこんなことを言っても、「そんなことを言われたくて相談しに来たわけじゃない」と怒られるのは決まっているので、面と向かっては言いませんが、それこそが厳しい現実なのです。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年7月2日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込864円)

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