名ばかりの「美しい調和」。米とEUの板挟みで苦悩の安倍首相

 

原案の内容を知ったマクロン氏が「レッドライン発言をしたため、欧米メディアでかなり大きく報道された。たとえばワシントンポスト6月28日WEB版の記事。要約するとこんな内容だ。

安倍首相は「美しい調和」を掲げて会議を始めたが、蜜月関係のトランプ大統領が同じ場所にいるので、叶わぬ目標かもしれない。国際舞台の裏で、地球温暖化、プラスチックゴミの海洋汚染など、環境問題が深刻化している。マクロン大統領が、気候変動問題のレッドラインより後退したら共同声明に署名することを拒否すると述べたため、金曜日の夜、役人たちは何ら成功の保証もなく、一方でヨーロッパ、他方で米国を満足させるための文章を練っていた。G20の議長を務めることは日本の指導者にとって大変な仕事だ。世界のリーダーシップを発揮する役割を守りつつ、最も重要な同盟国を納得させる仕事をしなければならない。

トランプ大統領の自国本位主義と、フランスが主導する多国間の枠組み「パリ協定」にはさまれて、議長国の安倍首相と事務方が苦労するさまを、皮肉まじりの薬味をきかせて書いている。

米メディアによると、大阪サミット初日の午後、ヨーロッパの指導者たちは、トランプ氏が気候変動対策にどれほど反抗的であるかを議論していた。日本の担当者は19か国と米国を区別するのではなく、20か国の何らかの合意を得た方がいいと言い、初日の交渉は流動的なままに終わったようだ。

原案に「パリ協定の完全実施」の文言が盛り込まれていなかったために、かなり議論が紛糾したさまがうかがえる。

ヨーロッパではこのところ、温暖化対策の強化を求める若者のデモが広がり、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロに減らす長期目標の議論が行われている。

5月下旬の欧州議会選挙で環境重視の会派が躍進したこともあり、ユンケル欧州委員会委員長は「気候変動についての強い声明」が必要だと指摘。ブエノスアイレス宣言の後退を受け入れることはできないと記者団に語っていた。

安倍首相とそのシェルパ(補佐役)は、トランプ氏に最大限の配慮をしようとしたが、マクロン氏やユンケル氏ら欧州首脳の強い意思を無視することはできなかったのだろう。結局のところ前回とほぼ同じにすることでお茶を濁した。安倍首相はあやうく、パリ協定さえトランプ追従の犠牲にするところだった

地球温暖化防止の市民活動をしている「気候ネットワーク」は浅岡美恵代表名で、次のような手厳しい内容の声明を発表した。

安倍総理は、議長国として、気候危機の解決に向けたリーダーシップを発揮すると強調していた。ところが、実際は、米トランプ政権に配慮し、内容を骨抜きにして全体合意を図ろうと最初から妥協の姿勢で臨んだ。会議の途中では、アメリカとEUの文言を巡る対立で合意が危ぶまれる場面もあった。…今回のサミットにおいて、安倍総理は、気候・エネルギー分野におけるリーダーシップを全く果たせなかったという非難を免れないだろう。

トランプの機嫌を損なわないことばかりに腐心する安倍首相には、サミット直前にトランプ氏から突きつけられた日本に対する無理解”も強いプレッシャーとなっていた。

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