近江商人の経営哲学を表す言葉としてよく知られるのは「三方良し」ですが、同じく数百年の時を経た今でも通用する金言があります。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では著者の梅本泰則さんが、そんな「近江商人商売十訓」を紹介しています。
近江商人商売十訓
近江商人の経営哲学に「三方良し」というのがあります。大変有名な言葉ですね。ご存知のように、「三方良し」とは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」のことです。その意味はいろいろな本で解説されていますが、要するに
「良い商売(経営)というのは、自社にとってもお客様にとっても社会にとっても良い結果をもたらすものでなくてはならない」
という考え方を言っているのではないでしょうか。「売り手」や「買い手」だけでなく、「世間」に目を向けているところがすごいですね。
それはともかく、近江商人の経営哲学は「三方良し」だけではありません。「近江商人の商売十訓」というものが伝わっています。こちらの方は、「三方良し」ほどには有名ではありませんのでご存じないかもしれませんね。そして、「三方良し」と同じように、いつ誰が残した言葉かは分かっていません。
いずれにしても、数百年前から近江商人の間で積み上げられてきた「教え」です。この「教え」に支えられて、近江商人のビジネスが繁栄してきたと思われます。その「商売十訓」とはどんなものでしょうか。ご紹介します。
- 商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
- 店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
- 売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる
- 資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし
- 無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ
- 良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
- 紙一枚でも景品はお客を喜ばせる つけてあげるもののないとき笑顔を景品にせよ
- 正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ
- 今日の損益を常に考えよ 今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
- 商売には好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ
いかがでしょうか。とても奥深い言葉ばかりですね。
商売十訓のすごさ
読んでみるとお分かりでしょう。「近江商人の商売十訓」は現代でも十分に通用するものです。そこで、この商売十訓を整理してみます。すると、経営理念に関する言葉と、マーケティングに関する言葉に分けられるのです。
経営理念に関する言葉は、1.4.10.になります。マーケティングに関する言葉は、あとの残りです。そして、そのマーケティングの言葉は、商品戦略、流通戦略、価格戦略、プロモーション戦略に分かれています。
商品戦略に関する言葉は、2.と5.。流通戦略に関する言葉は、2.(重複)。価格戦略に関する言葉は、8.と9.。プロモーション戦略に関する言葉は、3.と6.と7.。
こうして整理をしてみると、商売十訓は大変バランスが良いことが分かります。ですから、腑に落ちるのです。
さて、この十訓はどれもこれも納得がいきますが、中でも良いと思われる言葉を選んでみます。まずは、8.の「正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ」です。値引きをしてはいけない、とあります。では、スーパーマーケットやドラッグストアはどうしたらいいのでしょう。しかし、私も「値引きをしない商売」が正しいと思っています。とはいえ、値引きをしなければどうやって売ったらいいのでしょう。
商売十訓には、「お客のためになる商品を売る」ことだとあります。5.にある、「無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ」が、それです。つまり、売上ばかりを追いかけているから「値引き」をすることになります。「無理に売る」ことにもなってしまうでしょう。お客様の為になるものを売っていれば、値引きは必要ないということです。そのためには、常にお客様のためになる商品やサービスは何かということを考えて提供しなければなりません。
一方、「客の好むものを売るな」というのはどういうことでしょう。