まさか官邸の圧力?映画『新聞記者』大ヒットに、虚構新聞社主が物申す

2019.07.26
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政権の巨悪を暴くために奔走する新聞記者と官僚を描いた社会派映画「新聞記者」の興行が好調です。6月末の公開から25日間の興行収入が 4億を超え、動員数は33万人を突破。異例の大ヒットを受け、23日に出演俳優のシム・ウンギョンさんと松坂桃李さんが都内映画館で「大ヒット御礼舞台挨拶」に登壇。松坂さんは「賛否があって語れる作品だからこそ、強い熱量になるのだと思います」と語られました。そんな賛否両論の話題の映画「新聞記者」を観たメルマガ『虚構新聞友の会会報』の発行者で虚構新聞の社主UKさんに、レビューしていただきました。

限りなくノンフィクションに近い現政権批判映画だけれど…

(※「坂本問答」は、虚構新聞社社主のUKと、同紙コメンテーター・識者として知られる坂本義太夫氏が、時事などについて電話越しに語り合う放談コーナーです)

UK「今日『新聞記者』っていう映画を見てきたんですよ」

 ▼映画「新聞記者」→https://shimbunkisha.jp/

坂本「ほう」

UK「原案になってるのは東京新聞記者・望月衣塑子さんの本だそうです」

坂本「ああ、定例会見でよく官房長官とケンカしてる、あの人か」

UK「元の本は読んでないんですが、メルマガ読者の人に教えてもらって『同じ新聞記者としてこれは観ておかないと』と思って」

坂本「いや、記者じゃないだろ」

UK「それはさておき、話はある新聞社に送られてきた新設大学認可に関する黒い疑惑のリークをきっかけに、疑惑を追う女性記者と、その疑惑をもみ消そうとする官僚組織──というより、内閣情報調査室──との対決を軸に進む内容でした」

坂本「新設大学とか、どこかで聞いたことのある話だな」

UK「もちろん、某学園獣医学部新設のあれこれがベースでしょうね。それ以外にも、政権寄りのライターから性的被害に遭った女性が実名でカミングアウトする話とか、公文書改竄と官僚の自殺とか、昨今のきな臭いあれやこれやも挿入されてました。一方で『お友達内閣』のように、いかにも市民運動なクリシェ(常套句)には、う〜ん……って感じもあったんですが」

坂本「そこまでやるんだったら、いっそ事実をもとにしたノンフィクション映画でもいいような気がするけどな。現政権を遠回しに当てこするんじゃなくて、『加計学園』に『伊藤詩織さん』に『佐川局長』ってはっきり言えばいいじゃないか

UK「せっかく人がぼかして言ったのに……」

坂本「映画を見てないから何とも言えないが、その辺りに作品としての限界を感じるな。『マスコミVS国家権力』という話で言えば、メリル・ストリープの『ペンタゴン・ペーパーズ』は実話だから説得力あったのだけどな」

UK「おお、先生もご覧になってたんですね。『ペンタゴン』は史実ですが、『新聞記者』が扱う事件の元ネタは、追及の決定打に欠けたせいで、結局どれも不起訴や官僚の辞任で幕が下りてしまったじゃないですか。なので、ノンフィクションにするのは無理だったんじゃないですかね。どれほど怪しくても、法的には『シロ』で決着した案件ばかりです」

坂本「で、おもしろかったの?」

UK「うーん、良いところもあり、悪いところもあり、ですかね。ネタバレになるのであまり話せないんですが、例えば政権に不都合な情報が出ると、内調(内閣情報調査室)が指示してツイッター上にデマや中傷を拡散させるシーンが何度も出てくるんですよ。もしこれが本当だったら、内閣府が税金を投じて嘘をばらまいて世論操作しているわけで、大問題なんですけど、『※この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ありません』っていう設定のせいで、他人事に見えてしまうんです」

坂本「ふむ。そう聞くと、『ペンタゴン・ペーパーズ』は、『ワシントン・ポスト』紙に敵意を向けるニクソン大統領の実際の肉声が入っていて、生々しかったな」

UK「そういう現実と交錯する場面が少なかったせいで、権力が持つ怖さをどれほど描こうとしても、見終わった後に『この国ヤバい』っていう切実な気持ちが残らなくて、せいぜい『へー、本当だったら怖いなー』で止まってしまいました。フィクションという設定がどうしても危機感を遮ってしまうんです」

坂本「そういう中途半端なのは良くないな。批判の鋭さがなまくら刀になってしまう」

UK「そうなんですよ。だからせめて、もう少し具体的な事実を混ぜてくれたらなー、と。見終わったあと、『今の息苦しい言論環境でよくぞここまで攻めた』って褒める感想を見かけたんですが、これって逆に『今の政権はこういう不都合な言論でも上映を保障してますよ』っていう寛容さを証明してみせただけなんじゃないかという気もするんですよね。政権批判のつもりが、かえって政権擁護になってるんじゃないかと」

坂本「結果的に不満のガス抜きにしかなってないのかもな。本気で政権を取る気がなさそうな昔の社会党や今の野党の存在感と同根だ」

今の息苦しさを「安倍のせい」で済ませていいのか

UK「むしろ最近感じるのは、特定の権力者や組織ではなく、みんなで空気を読み合って、自分たちでちょっとずつ息苦しくしてないか?ということなんです。戦中少年だった親戚のおじさんが生前、敗戦を振り返って『東条のアホのせいで』と言ってたんですが、きっとあの時代も『何か変だな』と思ってた人がいたはずなんですよ。だけど、本気で止めずにみんなでちょっとずつダメな方へと向かっていったような気がするんです。果たして本当に軍部の暴走だけだったのかな、と」

坂本「まあ、年金も少子化も似たようなものだな。昔から危ないと言われてたのに、何となく『そこには触れないでおこう』という空気を読んで、真剣に取り組まなかったから取り返しがつかなくなった今になって『もうダメだ』と慌てている。8月31日の小学生みたいなものだ」

UK「はー、確かにそうかもですね。だからこの映画も、やれ『言論の自由が危ない』、やれ『こういう作品でも許容されているんだから、言論の自由は健在だ!』って、皆でやいのやいの言い合ってる甲板が載ってる船そのものが沈没のさなかにあるような気がしてならないです。で、いつか日本がどうしようもなく没落したころになって、『安倍のアホのせいで』と個人に責任をなすりつける人も出るんじゃないかと」

坂本「ふむ。大まかには同意するが、一点だけ大きな誤りがあるな」

UK「えっ、どこですか?」

坂本「いつから日本が没落していないと錯覚していた?

UK「えっ」

(電話切れる)

image by:「新聞記者」ポスタービジュアル

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京都市生まれ。滋賀県在住。虚構新聞社社主。2004年3月、虚構記事を配信するウェブサイト「虚構新聞」を設立。2010年「アルファブロガーアワード」にノミネート。第16回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品受賞。2012年開始のメルマガ「虚構新聞友の会会報」では、記事執筆の舞台裏やコラムなどをお届けしています。

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