企業が従業員らに対して与える義務がある年次有給休暇ですが、場合によって年休扱いができる場合とできない場合があることはご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』では著者で現役社労士の飯田弘和さんが、今まで受けた年休に関する質問の中から「悩ましいケース」について詳しく解説しています。
年休取得に関するご質問に答える!
年休についてのご質問の中には、「〇〇の場合には、年休を与えなければならないのだろうか?」といったものがあります。
たとえば、妊娠中の女性従業員が、産前産後休業を取る代わりに年休を使いたいといった場合。
産前産後休業期間とは、産前6週間と産後8週間をいいます。この間は、健康保険の被保険者であれば、出産手当金を受給できます。ただし、出産手当金の額は、通常の賃金よりも低額です。
また、パート等で健康保険の被保険者でない者は、出産手当金は受給できません。そこで、産前産後休業中に年休での扱いを希望する従業員が出てきます。この場合、従業員の希望通りに年休取得を認めなければならないのでしょうか?
ここで、産前産後休業について解説していきます。この定めは、労基法65条に定められています。産前休業については、「6週間以内に出産予定の女性従業員が休業を請求した場合には、与えなければならない」と定められています。産後休業については、「産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合で、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない」と定められています。
年休は労働義務のある日に取得できるものです。したがって、産後休業期間については、法律で労働が禁止されているので、年休を取ることはできません。産前休業については、従業員の請求が要件となっているので、年休を取るか産前休業を取るかは従業員の選択が可能という事になります。ですから、産前6週間については、従業員が産前休業ではなく年休取得を希望した場合には、それを認めなければなりません。
では、話は変わって、労災や通勤災害で休業中の従業員から年休取得希望があった場合はどうでしょう?この場合には、年休取得を認めなければなりません。なぜなら、この間は労務の提供ができないとは言っても、労務提供義務が免除されているわけではないからです。
私傷病等で一定期間休む場合を考えてもらえば分かることですが、この場合も労務提供義務が免除されているわけではなく、ただ働ける状況ではないから、会社は休むことを認めているに過ぎません。そして、このような私傷病の場合には年休取得が認められますし、会社は実際にそのような対応をしていると思います。同様に、労災や通勤災害で休業中であっても、年休取得の希望があれば認めなければなりません。
逆に、私傷病の長期療養者が「休職」に入っている場合には、休職事由が消滅するまでの間、休職命令や休職規定によって、労働義務が免除されているので、年休を取得することはできません。
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