デモが本格化してから100日を超えた香港。未だ収束の気配が見られないばかりか、新しい動きも出てきているようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、香港の民主派リーダーがベルリンを訪問した事実と、彼の巧みな「情報戦戦略」を紹介しています。
香港の民主派リーダーがドイツで外交戦
香港情勢、今月に入って大きな動きがありました。
香港行政長官、逃亡犯条例の改正案撤回を正式表明
読売新聞オンライン 9/4(水)19:15配信
【香港=角谷志保美】香港政府トップの林鄭(りんてい)月娥(げつが)行政長官は4日、中国本土への犯罪容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例の改正案を正式に撤回すると発表した。林鄭氏は、改正案撤回を求めて6月に大規模化した抗議運動を受け、既に改正案を事実上の廃案としている。今回の撤回発表は、廃案では納得せずに抗議運動を激化させるデモ隊に譲歩した形だ。
6月9日に、103万人デモが起こった。理由は、「逃亡犯条例改定反対!」でした。それで、香港デモは、「最初の目的」を達成したことになります。しかし、デモはおさまりそうにありません。キャリー・ラム行政長官が3か月考えている間に、民主派の要求が5つに増えてしまった。5つの要求とは???
- 逃亡犯条例改正案の完全撤回 (今回実現)
- 平和的な市民活動を「暴動」と定義しないこと
- デモ参加者の逮捕と起訴をやめること
- 職権を乱用した警察の暴行を追及すること
- 行政長官辞任と、民主的選挙の実現
行政長官は、1,200人から成る選挙委員会で選出される。任期は5年で2期まで。立候補には、中国政府の許可が必要で、反中派は立候補もできない。それで、デモは直接普通選挙の実施を求めている。
というわけで、後4つの目標を実現するために、デモはつづいていきます。
香港民主派リーダーがドイツで外交戦
私は、欧州情報ピラミッドを見る時、「DW(ドイチェ・ヴェレ)を参考にしています。ドイツの放送局ですが、私が見ているのは「ロシア語版」。2019年9月12日の放送を見ていたら、6分頃から「香港の民主派リーダーがベルリンを訪問した」という話をしていました。何が報じられていたか、まとめてみます。
- ドイツの外相ハイコ・マースは、ベルリンを訪れた香港民主化運動のリーダー、ジョシュア・ウォン(23)と話した
- 中国は激しく抗議したが、ドイツ外相は、「これからも香港民主化運動のリーダーたちと会う!」と断言した(@北野:えらいっすね)
- ジョシュア・ウォンはDWに、「ドイツの(メルケル)首相は、香港の民主化運動に注目するべきです。そして、民主化プロセスを支持するべきです。香港を守ることは、その地域住民だけの問題ではないのです。世界の指導者たちは、30年前に起こった天安門事件の再来を許してはいけません」と語った(@北野「これは世界の問題なのです」と主張することが、情報戦のポイント)。
- ジョシュア・ウォンは、DWで、「デモ隊は何を要求しているのか」尋ねられた。彼の答えは、「最大の要求は、自由な選挙の実施です。現在、香港の行政長官は、普通選挙で選ばれていません。行政長官は、中国共産党政権のマリオネットに過ぎないのです。行政長官は、民意によって選ばれるべきです。そうすれば、香港は、グローバル世界の一員として安定し、繁栄することができるでしょう」。彼は、普通選挙で行政長官を選べるようになれば、毎週起こっているデモはなくなるだろうといいました。
ジョシュアさんは、大学での講演もこなしました。大盛況だったようです。「自由のために命をかけている」と感動している学生さんもいました。ジョシュアさんは、アメリカにも行くそうです。米中覇権戦争の真っ最中。きっとアメリカでも大歓迎されることでしょう。
image by: Jimmy Siu / Shutterstock.com