日本アパレル復活の鍵はインバウンドか。記念服に見る服飾の未来

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増加する外国人観光客。その背景に、日本ならではのインスタ映えを狙った「体験型旅行」の存在があるようです。例えば、古い寺院の訪問にとどまらず、「日本でしか着られない服の購入+SNS」という図式が今人気になりつつあるとのこと。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、服が売れる必須条件に「シーンと気分」を挙げ、デザイナーと観光業の強力タッグによる和製アパレルの展望を描いています。

インバウンド向けファッションの可能性

1.職人を見たいというニーズ

日本は製造業立国から観光立国へと転換している。統計分析ではなく、個人的に実感しているのだ。

国内製造業で利益を上げるのは、益々困難になっている。海外からの輸入品との価格競争もあり、高い価格は通らない。なにをやっても儲からない。個人の努力や工夫ではどうにもならない状況である。

一方、全国のあらゆる場所に海外からのインバウンドが押し寄せ、お金を落している。日本で様々な体験をしてサービスを楽しみ、商品を購入している。

職人は製造業だけに専念したいのだが、それでは商品が売れない。商品を見せるだけでは、技術力は伝わらない実演を行い、体験をさせることで、初めてその価値を伝えられる。本人が嫌でも、工房に閉じこもって制作に専念するのは難しい。職人が外に出ることで、職人の価値が認められる。そんな時代になったのである。

2.旅先で買いたい商品

一般的に日本人デザイナーは、日本人の顧客、日本国内の市場を対象としている。しかし、日本国内市場は海外製品との競合が待っている。

しかし、インバウンドはメイドインジャパンの商品を日本国内で購入したいと思っている。従って、中国製品と競合しなくてもいい。

ここで勘違いする人が多い。日本製品が外国人に売れるなら、外国に輸出すればいいのではないか、と考えるのだ。

インバウンドは日本製品をお土産ものとして購入している。生活必需品ではなくて、記念品として購入しているのだ。だから、多少価格が高くても購入するのである。しかし、海外市場で海外の顧客に販売するには、顧客のライフスタイルに合わせなければならない。生活必需品を売らなければならないのだ。

海外旅行先で購入するものと、生活の中で買い物する商品は自ずと異なるのである。

3.マニアックな観光客に向けたお土産品

購入時の気分の違いを理解せずに、商品だけを考えるのは間違っている。同じ商品でも購入するシーンによっては売れるし、シーンが異なれば売れない。買うという行為が重要なのであり、その場で何かを買いたいのである。

購入するシーンや気分を含めて、魅力的なシーン、売り方、サービス、商品を提案しなければないない。それがインバウンド向けのマーケティングであり、インバウンド向けの商品企画である。

例えば、お土産もののTシャツを新たにデザインする。ディープな観光客をターゲットに絞り、そこでしか買えないTシャツを提案する。

盆栽マニアの外国人向けに、盆栽Tシャツを提案する。盆栽の柄だけでなく、盆栽に使われる道具や用語があってもいい。盆栽の基本をテーマにしたコンテンツでもいいし、盆栽に適した樹木の種類でもいい。

忍者の修行に来ている外国人には、忍者の武器や道具。手裏剣の柄や鎖帷子の柄等々。

日本刀マニアには、日本刀の波紋だけをクローズアップした図案が良いかもしれないし、様々な刀工の名前があってもいいだろう。

このように、既存の市場にはないお土産ものを提案することで、観光地の新たなビジネスを支援するのはどうだろうか。

4.インバウンド向けファッションショー

インバウンドの人達が着たいと思う服はどんな服だろうか。

例えば、伝統的なきもの、ゆかた。あるいは、コスプレ。若手デザイナーによるインスタ映えするアバンギャルドなドレス。日本らしい素材や色柄だと思い出に残るかもしれない。逆にデニムも良いかも。

サイズのないようなビッグな服。二人で着る服や三人で着る服。写真に撮って思い出に残る服なら何でもいい。富士山の服でもいいし、忍者の服でもいい。

受注を目的としたファッションショーではなく、あくまでインバウンドに向けた参加型のファッションショー。作品を展示しておいて、ファッションショーに出演したい人を募る。多少のヘア&メイクをしてあげて、写真にも撮る。そこまでやるならば、有料でもいいだろう。

「日本に行ってこんな体験をしたよ。日本人のデザイナーって何て自由なんだろうね」などと思ってもらえればいいし、それをSNSでシェアしていただければ、更に嬉しい。

このノウハウが確立すれば、全国の観光地に作品を回してもいいし、観光資源として購入してもらえるならば、新たなビジネスになるだろう。

image by: Shutterstock.com

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