国際交渉人が憂慮するトランプ外交「オウンゴール連発」後の未来

 

さらにイランとレバノンでも大規模な反政府デモが拡大していますが、これも元をたどれば、アメリカがフセイン政権を武力で打倒した後、放置し続け、民族間・宗派間での格差や対立を助長してきたことに起因すると考えられますし、レバノンについては、昨今、無政府と言っていい状況がつづいていましたが、シリア問題への、これも中途半端な対応が、隣国レバノンの権力の所在が不明という悪影響を呼び一気に不安定要因が増長しています。

また、イランとの確執が長期化し、落としどころが見えないという混乱状態も、中東地域のパワーバランスを狂わせて、地域としてのインテグリティーを著しく低下させる結果になっています。そしてこの両国の不安定化は、またイスラエルの安定を脅かす要因として再登場することになるでしょう。これもトランプ外交の一貫性のなさと中途半端さが招いた悲劇だと言えるかもしれません。

その混乱に乗じて、念願の中東地域への足掛かりを確保し、地域における影響力を高めているのがロシアです。先述のように、アメリカべったりだったサウジアラビアも、UAEも今や、ロシアの仲間に加えられていますし、イラン、シリアなども着々とロシア影響圏に組み入れられてきています。

それを可能にしている切り札が、同じくアメリカの同盟国であったはずのトルコです。空軍基地にNATOサイドの50発を超える核弾頭が配備されているトルコが、来年にはロシア製のS400迎撃ミサイルを配備し、その地政学的な位置付けも相まって、完全に地域におけるキャスティングボートを握る存在になっています。トランプ政権から度重なる経済制裁を課される中、“心”はロシアに向いているように見えるのは自然の結果かもしれません。

これも欧州とアジア、そして中東の中心に位置するトルコを、きちんと取り込み切れなかったトランプ外交の失策、オウンゴールだと言えます。

北東・東南アジアでもオウンゴール連発

目をアジアに移した場合、トランプ外交のオウンゴール連発の状況を明確に見ることができます。その最たるものは、米中貿易戦争でしょう。第4次関税については今のところ実施が先送りされていますが、今やすでにどちらの国を利することもなく米中経済両方に消耗戦を戦う羽目になっています。

そして、その影響は、成長のエンジンとされていた東南アジア諸国に波及し、成長率を著しく下げてしまうなど、国際経済、地域経済にも大きな悪影響を及ぼしています。東南アジア諸国については、最近になって、自分たちの経済を、中国経由の世界戦略から、“自国経済のアジア化”(アジアで生産したものをアジア圏で消費して、需給のループを域内で完結させるスタイルに変えることで、国際経済の波にさらわれづらい耐性を作る試み)に変革し、デフォルトに陥るような最悪の事態は免れているようです。

とはいえ、中国との取引を禁じ、それでいてサポートしないトランプ政権の経済政策外交の不備も、これまで歴代政権が堅持してきた“アジア太平洋地域のパワーとしての地位”を失わせるオウンゴールになっています。

その最たる例が、今週バンコクで開催されたASEAN首脳会議をトランプ大統領が欠席したことです。ウクライナ問題や選挙にかかる問題などで、“それどころではない”とのことですが、今回のアメリカの欠席は、アジア全域における中国のプレゼンスを高め、習近平国家主席が今年に入って掲げるOne China; One Asia政策を勢いづける方向につながってしまいました。

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