ドクターヘリの研究調査や運航支援を行う救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)が、創立20周年記念シンポジウムを都内で開催。ドクターヘリの夜間運行についての基調講演で明らかになったスイスの実情を紹介するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんです。小川さんは、日本においても夜間運行が当たり前になるよう、50年以上事故を起こしていないスイスの運用を検証し学ぶべきと提言します。
スイスの救急ヘリはすごい
久しぶりにHEM-Net(救急ヘリ病院ネットワーク)のシンポジウムに顔を出してきました。HEM-Netは創立20周年。いまや53機にまでなり、テレビや映画の『コードブルー』で国民に親しまれているドクターヘリの牽引車です。私も小渕内閣当時の野中官房長官とドクターヘリを実現した立場で、ずっと関わらせてもらっています。
そこでシンポジウムの中身ですが、メインテーマのひとつにドクターヘリの夜間運航がありました。特に日本では、消防防災ヘリ、警察ヘリは夜間飛行に消極的な傾向があります。私も静岡県の防災ヘリの夜間飛行訓練を実施し、自分でも搭乗している立場ですが、とにかく神経を使うことは間違いありません。しかし、急を要する傷病者にとっては24時間運航であってほしいのは当然です。
今回のHEM-Net20周年シンポジウムの目玉は、この夜間飛行というテーマについて最も先進的に取り組んでいるスイスの事例を、それも当事者に基調講演してもらおうというものでした。登壇者はスイスエアレスキュー(REGA)のステファン・ベッカー氏。演題は「100%の信頼を目指して」。
REGAはスイス赤十字に協力する救急医療を目的とする民間組織で、会員からの年会費(2500円)と寄付によって活動しています。国内13個所のヘリポートにヘリ17機、小型ジェット機3機を展開し、救助要請から15分以内にスイス国内のどこへでも駆け付けることができます。
そこで、基調講演のテーマである夜間飛行をはじめとする危険性が伴うフライトですが、なんと出動件数22万回の19%(13万飛行時間の21%)が夜間飛行で、しかも50年以上にわたって1人ずつのパイロットで運航し、事故を起こしていないことが判りました。
夜間運航に尻込みし、パイロットは2人でないと危険という主張を総務省消防庁が打ち出している日本とは、えらい違いでした。
3000メートル級のアルプスの山々の間をフライトし、パッシブタイプのサーマルイメージャー(温度差を検知する赤外線暗視装置)で遭難者を発見していますし、そこにヘリコプタータイプのREGAドローン(ヤマハ発動機や富士重工の無人ヘリタイプ)とクアッドコプタータイプ(一般的な回転翼4枚のドローン)のドローンを組み合わせて成果を挙げています。
そのうち、独自に開発したREGAドローンは、有人ヘリでは危険と判断された悪天候時の捜索などに投入されます。マイナス40度の低温でも飛行可能です。むろん、ドローンには衝突防止装置も搭載されています。2年後には全天候型のヘリが新たに加わります。ちょっとやそっとの雪で飛べないようでは、人命を第一に考えているとは言えないという思想が明確にあるからです。
このスイスの実績を前に、日本の関係者は大いに考えさせられたことと思います。(小川和久)
image by: KishujiRapid [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons