朝日新聞の一面見出し修正を招いた「自衛隊の学生」への先入観

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12月9日に発覚し報道された、防衛大学校研究科の学生が強制性交等の疑いで逮捕された事件。朝日新聞の見出しが、その後変更されたことについて、「学生」という言葉への先入観があったと指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、自衛隊の中には、多くの「学生」という立場の人が存在すると、陸上自衛隊を例に解説。国会議員にも同様の先入観を持っている人がいると、認識を正すことを求めています。

30歳の防大の学生って?

12月10日付の朝日新聞朝刊を開いて、紙面の一画に釘付けになりました。

強制性交の疑い、防大の学生逮捕SNS通じ女児被害

職業柄、防衛大学校と聞けば関心を持たざるをえないわけですが、次のような記事の内容に対して誤解を与えるような見出しだったので、確認のために何回も読み直してみました。

「SNSで知り合った小学生の10代の女児と性行為をしたとして、広島県警呉署は9日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)理工学研究科の学生で、海上自衛隊1等海尉の田中隼人容疑者(30)=同県大和市=を強制性交等の疑いで逮捕し、発表した。『間違いありません』と容疑を認めているという。(後略)」(12月10日付朝日新聞)

30歳?うん?と思いました。普通、防衛大学校の学生と言えば18~19歳で入って、なにかの理由で留年しても25歳くらいの年齢までしか在学していないはずです。研究科と呼ばれる大学院ならあり得ることですが、この見出しでは20歳前後の学生を思い浮かべます。幹部自衛官に任官したあと研究科に学ぶことは不思議ではありませんから、その点で見出しには工夫が足りなかったと思います。

さすがにまずいと思ったのでしょうか、それとも、朝日新聞の内外から指摘があったのかもしれませんが、いつの間にか見出しが次のように修正されていました。

小学生の女児に強制性交の疑い防衛大生の1等海尉逮捕

朝日新聞の校閲部でさえ見出しのおかしさを見逃してしまうのは、自衛隊が身近な存在でないからだと思います。朝日新聞だから自衛隊に悪意を抱いている、ということではありません。しかし、自衛隊を批判するにせよ、自衛隊の組織や人事の基礎知識くらいは備えていないと、ジャーナリズムとは言えません

マスコミばかりではありません。国会議員も同じような知識不足をさらすことがしばしばあります。2008年11月11日、参議院外交防衛委員会で行われた田母神俊雄前航空幕僚長に対する参考人質疑で、民主党の犬塚直史議員は次のように述べました。

「田母神参考人は統合幕僚学校の校長先生としての経歴をお持ちだ。純真な自衛隊員が入ってくる(後略)」

田母神氏は参考人質疑直前の2008年10月、アパグループの懸賞論文最優秀賞を受賞した「日本は侵略国家であったのか」が、政府見解と異なる主張だと問題となり、退職したことは記憶に新しいところです。犬塚議員の質問に対して、田母神氏は苦笑しながら一言で斬って捨てました。

「あの、統幕学校の学生は、一等空佐であるので、とてももう純真とは言えません。40過ぎで。(後略)」

犬塚議員には、統幕学校という「学校」の「学生」だから、当然、「純真な若者」だろうという思い込みがありました。しかし、自衛隊という巨大組織の教育の仕組みは色々な年代にわたり、重層的に組み立てられています。

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