3.最大の資産は、高い生産能力・技術
RMBは三陽商会の強みを以下のように分析する。
三陽商会の強みは、長い歴史の中で培われた縫製技術、製造技術である。
デジタル・インターネット時代だからこそ、同社の実践する丁寧なものづくりに対する評価は高まるだろう。また、本物を求める消費者嗜好の変化とファスト・ファッションのピークアウトの可能性、環境・サステナビリティへの配慮の観点から、同社のような伝統的高級アパレルの価値が見直されると期待している。
4.簡単に売却先は決まらないだろう
RMBは百貨店ルートに可能性を感じていない。デジタルチャネルへの移行には資本が必要だが、その資金はない。有力な自社ブランドもなく、新たなライセンスブランド戦略は困難だろう。
強みは、高い生産能力と縫製技術である。このままでは、強みも失い、企業価値は更に毀損されるので、今のうちに売却すべきである、という意見だ。
株主としては当然の意見だが、この分析によるとアパレル企業の資産は既にあまり残っていない。アパレルの最大の資産はブランドだが、そのブランドもない。
強みの生産技術も、既に人材は流出している。確かに、優秀な縫製工場は抱えているが、コストは高いし、テキスタイル開発力があるわけではない。
三井物産からの経営者と、真面目な三陽商会の社員でも再生できなかったのだ。国内アパレル企業で、それ以上の能力と体力を持つところはないだろう。
買収してくれるとすれば、レナウン同様に中国企業になるのではないか。中国企業なら、新たなブランド開発を行うよりも、三陽商会の歴史と所有しているブランドを買い取った方が早いと考えるだろう。
しかし、レナウンの事例でも分かるように、中国の大企業と組めば、中国市場で成功できるという簡単な話でもない。
また、今回の新型コロナウイルス禍により、中国企業も相当にダメージを受けるだろう。そう考えると、簡単に買収に応じる企業は出てこないと考えざるを得ない。更に、もう一期、独力で頑張るしかないが、新型コロナウイルスの影響で赤字は拡大するに違いない。
■編集後記「締めの都々逸」
「俺ッて バリバリ バーバリ頼み バリバリ剥がされ 打つ手なし」
いろいろ考えてみたが、結論は厳しい。三陽商会は本当に真面目で良い会社だと思う。それだけに残念だが、真面目さが仇になって、手遅れになったのかもしれない。
真面目なエリートは泥臭い商売ができない。カッコイイ商売が儲からない時代もあるのだ。
20年ほど前に、三陽商会の課長研修の講師を務めたことがあり、その時にお話したのが、「ライセンスブランド依存はハイリスク」ということと、「新ブランド開発をしよう」というテーマだった。当時はバーバリーも元気で、その話題は役員に受けなかったようだ。そのときからこうなることは予想できていた
のに、実に残念だ。(坂口昌章)
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