競合他社に打ち勝つためには何が必要なのか…。私たちは往々にして、相手の「いいところ」ばかりに目が行ってしまいます。しかし、本当にそれだけで勝つことは可能なのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、かつて高知支店長として県内シェア首位奪還をはたしたキリンビール田村潤氏の、「自社の理念とビジョンに基づく行動」を紹介しています。
ビールは味よりも「情報」で飲んでいる
1995年、45歳の時、田村潤氏はキリンビールで全国最下位クラスだった高知支店の支店長に任命されました。
負け癖のついた集団をいかにして変革し、シェア首位奪回を成し遂げたのか。鍵を握るのは「理念とビジョンに基づく行動」だといいます。
現在発行中の『致知』3月号では、田村氏が語った奇跡の逆転劇の顛末から、企業発展の秘訣を探ります。
数字は下がる一方でした。1996年に高知県内のシェアでキリンがアサヒに抜かれ、このままではもたないと思いましたね。
でも、県内の料飲店を回って、「宴会中にすみません。キリンビールですけど、ちょっと注がせてください」って挨拶し、「どういう理由でアサヒにしたんですか」「なんで人気のないキリンを飲んでくれているんですか」という感じで毎日聞いているうちに、頭じゃなくて体で分かってきたことがあったんです。
それは、ビールは味よりも情報で飲んでいるということでした。何となくアサヒが格好いいとか、売れていないビールは飲みたくないとか、そういう情報に左右されて人は飲むビールを選んでいると。
じゃあ良い情報をお客さんの心の中に蓄積させていけばいいんだ。それなら営業の力でアサヒの流れをひっくり返すことができるかもしれない。キリンは自分たちを大事にしてくれているというメッセージを伝え、情報を市場の中で連鎖させていこう。
その時に気づいたのが、キリンの経営理念だったんです。
キリンの社員手帳にはちゃんと「品質本位 お客様本位」って書いてあったんですけど、完全に死語になっていました。調べてみると、キリンは売り上げや利益よりもお客さんのために日本一おいしい最高のビールをつくっていくことに挑戦してきた歴史がある、と発見したんです。
ああ、そうか。我われの仕事はアサヒの真似をすることでもアサヒに勝つことでもなく、「品質本位お客様本位」という経営理念を武器に、高知の人に喜んでもらう、幸せになってもらうこと。それが実現できればキリンビールは救われるはずだ。こういうことを皆に話したんです。1997年の11月頃でした。
高知の人を幸せにするために、きょう一日の仕事があるんだということを一人ひとりが肚落ちしたところから、全く違う集団になっていきましたね。
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